実を言えば、詠唱戦部隊には、補給らしい補給は必要ない。弓兵部隊なら矢の補給や弦の張り直しもあろうし、白兵戦部隊だって刃が欠けたり血糊で切れなくなった剣の交換などがあるだろうが、詠唱戦はただ己の心身をすり減らすのみである。
「よーし、各員食料を受け取って食事をしろ。再出撃は直ぐに行われるはずだ」
栗田雷一がそう声をかけながら、座り込んだ兵の間を歩いて回り、その後に箱を抱えた天河宵がよたりよたりと続く。
「のど飴とドリンクここですよー。水分と糖分補給〜♪」
「ふぁー。生き返る」
アルカリイオン飲料をボトルで一気に飲み干しながら、支倉玲が声を上げた。
そう。詠唱部隊にとって、最大の損耗は「喉」なのである。こまめな水分補給とのど飴が欠かせない。そして余裕ができてから、少し腹ごしらえ……というのがFVB詠唱部隊であった。
「まだ受け取っていないやつはいないかー、居たら並んでくれ」
「あ、パック一つください」
栗田の手から流動食のパックを受け取りながら、天河宵が文句を言う。
「やっぱおにぎり食べたいですー。ご飯ーお米ー」
「ご飯とお味噌汁は、戦いが終わってから食べられますよ」
支倉玲もたしなめた。
「お米は全部終わってからにしましょう」
「あいー。我慢します。けど国取り戻したら、御飯と焼き魚がいいです、食後はスイカー」
そのとき新たな命令が下った。緊急輸送である。
FVB詠唱部隊は東国人理力使いであると同時に、船乗りであり海賊であったが、この期に及んで何を輸送しろというのか。
燃料であった。暁の円卓藩国、獅子心隊まで燃料44万トンを運べというのである。クーリンガンのトラップ発動を阻止するのに必要な燃料44万トンである。
そのとき、FVBの詠唱部隊の脳裏によぎったのは、核爆発級の魔術のことでなければ、これからの任務の困難さでもなく、ただ「うちの国は緊急に燃料を44万トンも供出できるような国になったんだなあ」という感慨だけだった。(830文字)