作戦用掲示板

合流 投稿者:さくらつかさ@FVB王

帝國に寧日無し


1.始まり
 その日、栗田雷一は、宙侍の魂であるサムライソードの手入れに余念がなかった。いや、余念がないというのは間違いだ。雑念だらけであった。
「たけきの藩王は美人なんだー。ふふんふん」
 刀身の曇りは心の曇りというのであれば、今のソードは真っ黒になっていたに違いない。
「なにがフフンフンであるかーっ!」
 障子をばばんばんっと開きはなって三梶大介が仁王立ちになっていた。
 平素であれば女性かと見間違わんばかりでお庭番装束も違和感のない容貌が、心なしかやつれ、顔色も悪く、無精髭が鍾馗さまのようになっている。鬼気迫るとはこのことであろう。
「ああ、三梶さん。どうしました? 髪が乱れておりますよ」
 ソードを置いてのほほんと話しかけてくる雷一のもとへずんずんと歩み寄ると、三梶は「来い」と首筋をひっつかんだ。
「え?」
「ふふんふんじゃない!」
 たけきの藩国が根源種族と思しき敵によって大打撃を受け、FEGの援護下で撤退しつつあるとの知らせが入ったのは、つい36時間ほど前の深夜のことであった。この悲報に藩王さくらつかさは即座に緊急避難先として受け入れる準備があると宣言した。そして駆けつけた家臣団たちにこう告げた。
「もう名乗りでちゃった。もし、戦火が拡大して巻き添えくらっちゃったら、ごめんねー」
 ここで思わずずっこけつつも、友邦の苦難に救いの手を差し伸べずしてなんの桜の武士(もののふ)かよと即座に立ち直るところが、FVBのカラーである。直情的で猪突猛進、回りくどいのが苦手で情に厚く、失敗も多く落ち込むときはとことん落ち込むが浮上も早い。
「わかりましたっ!」
「義を見てせざるは勇無きなり。根源種族がなんぼのものか!!」
「ボラでもイナでも来るなら来るがいい」
「メグローのサンマは美味いらしい」
「たけきのこ藩王さまが天下一の美女ってホントーですかあー?」
 即座に挙国一致で(まだ本決まりにならないうちから)亡命政権受け入れ準備が始まった。
 とりあえずの居所にしてもらおうと、王城二の丸の大掃除が始まり、布団や座布団に天日があてられる。ここ数日は例年にないぽかぽか日和であった。
「しかし、FEGも侠気がありますなあ。敵国を守って戦うなど・・・・・・」
「それが今度はこちらの役目となるのがわからんか、雷一!?」
 しかし、もし亡命政権を受け入れるとなったら、それだけで済まないのが世の習いである。あるいはそうでなくても、昨今各地で根源種族によって藩国が襲われており、祖国防衛の拡充が早急に求められていた。
「で、どこへ行かれるので?」
 長い廊下をずるずる引きずられながら、雷一が参謀に訊いた。
「御前会議だ。おまえも来い」
 ずんずん行く三梶に、横合いから降って湧いた曲直瀬りまが筒状にした紙を手渡すとまた消えた。王城周囲の詳細図だ。
「・・・・・・ご苦労。栗田雷一、おまえにも新たな役職が与えられた」
「はあ」
「猫の手である。今日から栗田猫の手雷一と名乗るが良い」
「それはご勘弁を〜」

2.求め
「『たすけて〜』」
「は?」
「だから、た・す・け・て!」
 軍議の席の冒頭で、藩王さくらつかさはいきなりこんなことを言い出した。
 今度は何のご乱心かと訝しむ重臣たちに、さくらつかさは歯がゆさをこらえて、噛んで含めるように説明した。
「もし、根源種族が攻めてくるとして、あたしたちで守り抜ける? 国土も領民もたけきのこさんたちも」
「まあ、はっきり言って無理です」と三梶大介。
「はっきり言わなくても無理です」と経乃重蔵。
「しかし、各地で根源種族の侵攻が予期され、実際に起きてもおります。そんな時期に我が国のために動く国がありましょうか?」
「あるよ、あるはず。正義の旗はここに立つんだから」
 執政・道化見習いのために、そしてまだ飲み込めない他の者のために藩王は語り続けた。欠点も少なくなかったが、こういうとき、言葉を惜しまないのが藩王最大の長所であった。
「ぽち王女しかり、あいつらは特定の人物を狙って動いているのよ。はっきりした理由はわからないけどね。まあ、ワールドゲートかそれ並の秘密が背後にあるはずよ」
 そこで居並ぶ者たちの間にも納得したという顔が広がる。
「ならば、ここで奴らに痛い目を見せてやらねば・・・・・・・」
「結局は各藩国が順番に潰されるだけってことですな」
 オカミチや品川門左衛門らも心得たと頷いた。
「まあ、そこでね、まだ敵が来るかどうかも判らないけどさ、先手を打ってなんとか援軍を募っておきたいわけ」
「しかし親書になんとしたためるおつもりですか。憶測だけでは」
 なおも食い下がる道化見習いに、さくらつかさはにっこり笑った。
「だから『たすけて』よ。それで解る国は解るわ。たけきのこさん人気で一目あいたさに飛んでくるかもしれないし。あとは適当に文章をとりつくっておいて」

3.応え
 以心伝心とはいわないまでも、助けを求める者あれば、それに応える者はいた。
 今、土場藩国からFVBに向けて新型のI=D部隊が飛び立とうとしていた。
「整備・歩兵部隊より伝令、フェザーの調整、チェック共に完了しました。B.O.O.Nシステム良好です。パイロットはテスト飛行の用意を」
 指示を出す声が響く中、兵士は自分の装備を再チェックする。しかし「あれ、俺、おやつわすれてない?」という声が時々あがるあたり、全員、独自I=Dのお披露目会かピクニックというノリであった。



 神聖巫連盟でも援軍派遣の準備が着々と進められていた。
「必要資材の積み込み完了でーす」
「供給用の食料と燃料も問題ないし、FVBに向けて行くとしますか」
 忙しく旅支度に走り回る藩士たちの中、途方に暮れた様子で1人の巫女姿の女性が右往左往している。妙齢の女性らしいが、狐の面を付けているのではっきり解らない。
「ねぇ、私は?」
 どうするの?なにをするの?と袖を引いて訊ねる巫女に、皆、忙しそうにしながら面倒くさそうに答える。
「大丈夫です、姫巫女様は着いてくる前提で既に準備を終えていますから」
 彼女こそ、この国の姫巫女(藩王)、藻女その人であった。王は黙って国民に付いてこいということだろうか。
 相変わらず姫巫女を差し置いて行動する国民一同であった。

4.入城
 FVBに真っ先に駆けつけたのは増加装甲に伏見のエンブレムである蒼桜をペイントし、真っ赤なマントを装着したトモエリバーの一隊であった。儀式兵の如くランスを捧げ銃の姿で入城するトモエリバーの掌の上で、「一番乗りは譲らない!」の殴り書きがひときわ目立つ大きな旗を手にI=D隊を率いる藩王が気勢を上げる。
「私は帰ってきた! もとい、助けに来た! 任せとけって、みんなの頼みならこの伏見、一肌も二肌も脱ごうじゃないか!」
 ご存知、トモエリバーの生みの親。伏見藩国が藩王伏見・P・京児その人である。
「FVBの皆さん、安心してくれ。俺たち伏見藩国はじゃあ、世界とピンチになっている人を助けに行ってくるから!の精神で全力で力になるっ!」
 この伏見、言ってる事が適当であるが、一番乗りで気勢を上げる役としてこれほどふさわしい者はいないであろう。



 続いて到着したのはヲチ藩国の軍勢であった。
 そして彼らは、「たけきのこ人気」を見込んだFVB藩王の判断が間違ってはいなかったという証拠そのものであった。
「みんな、たけきのこさんを狙う不届き者どもを蹴散らすぞ!」
 到着するなり執政砺波一哉はI=Dの機上で気炎を上げた。
「砺波執政殿はやる気満々ですね・・・・・・・」
 彼らを迎えたtaisaが、その姿を見上げてにっこり微笑んだ。
「ああ・・・・・・・藩王が仰るには青春ってやつだそうだ・・・・・・・」
「それで藩王さまにご挨拶したいと思うのですが?」
「ちなみにその藩王閣下はみかんの食いすぎで担架で護送中だと」
「はあ?」
「まあ、気にせんで下さい。犬の友が窮地と聞き、駆けつけて参りました。義の下に私達も戦います!」
 そのまだ名前も知らないパイロットの言葉に、taisaは深々とお辞儀した。



 赤髪は即ち復讐の炎。シロ宰相も認めたその美しいツインテールをなびかせ、藩王にして美姫、になしは声を上げる。
「時は来た! 立て国民よ! 今こそ国土と国民と我らがプリンセス・ぽちを傷つけた、あの憎き根源種族を討つのだ!」
 その気迫と威厳は煉獄の王の如く。だがそれも、座乗するチャリオットに特産になしダイコンの切干が積んであってはどうにも締まらない。
「なあセレナ、ゴールデン運用の為とはいえ物資輸送車の燃料まで節約するのはちょっと・・・・・・・」
「我慢しなさい。ウチだけじゃなく何処も燃料不足で辛いの。ほら、もうすぐ合流地点だからしゃきっとなさい」
 摂政Arebに叱咤され、になしは近づいてくる宙侍に気がついた。
 になし隊に合流した長い髪のサムライ・ガールは阿部火深と名乗り、この先の道案内をさせていただきますと一礼した。
「隣国のよしみでお助けしましょう。宙侍の活躍、楽しみにしてます。」
 彼女からFVBの最新データを受け取った吏族の月空は安心させるように笑って見せた。

5.陣地構築
 到着した愛鳴藩国FVB派遣部隊を前に、くぎゃ〜と鳴く犬藩王が口を開いた。
「皆さん、ここまで良く付いて来てくれました。ありがとう」
そして周囲の各藩国軍を指し示す。
「各国の勇士達とともに世界の悲鳴を止めましょう」
 FVBに縁の深いSVLが晴れやかに吠え、部隊が唱和した。
「すべての子供たちの笑顔のために!」
「笑顔のために!!!」



 愛鳴の声は、詩歌藩国の陣営にまで届いてきた。
 あいつらに負けてはおれんなと、援軍のためにFVBまでやってきた国民の前に立ち、九音・詩歌藩王は宣言した。
「私たちは一度死ぬ運命だったところを助けられ、生き永らえた。私は、この恩義を全力で返していこうと思う。今度は私たちが助ける側になる番だ」
 藩王が藩民を見渡すと、どの国民の目にも決意の色が見て取れた。それを確認してうなずく藩王。
「今こそ恩義を返す時。根源種族に詩歌藩国の力を見せつけてやろう」
 これを合図に詩歌藩国戦闘部隊は部隊の展開を開始した。



 越前藩国がFVBに到着したのは、他の藩国に比べればやや遅れてのことであるが、これは仕方のないことであった。なぜなら、この国は藩王以下全ての藩士が出陣することとなったため、出立の準備に時間がかかったのである。
 彼らがFVBに到着したときには、既に兵をまとめ上げることができた藩国が各地で陣地などを形成していた。
「FVBの地よ!愛すべき花の藩国よ!すまんが国土を要塞とすることを許して欲しい。我々は勝たなければならない。勝ったらきっと礼はする。だから今は許せ」
「よくぞ、おいで下さいました。藩王は今、最前線でございますのでご挨拶できなくて失礼いたします。しかし、我ら皆様の到着を心より歓迎しております」
 迎えに参じた天鳥船の言葉に、藩王はうむと頷くと再び皆を見る
「良し、全員、各自任務に就け。全力を尽くせ」
 かくして越前は合流を果たした。

6.偵察
 続々と集結する援軍を迎える中に、藩王さくらつかさやその他重臣の何人かの姿が見えなかったのは、援軍を軽んじていたからではなかった。藩王以下根源力の高い者は率先して偵察任務に就いていたためである。
 物見のお庭番と、侍のデータリンクから送り出されてくる情報に、よんた藩国の面々は固唾を呑んでいた。
「FVBに侵攻中のうまそうな食材たち・・・・・・・もとい敵どもは、俺達で食い尽くす・・・・・・・じゃなく片付けるぞ」
「藩王、よだれが出てます」
「(じゅるり)お前達も戦闘時以外の調理器具持ってきてるじゃないか」
「食材は鮮度が命ですから」
「これだけ肉があれば、保存食の調理法も考えんとな」
「とりあえず、保存用の食糧庫は増設してあります」
「そうか仕事が速いな。・・・・・・・FVBにはいろいろ借りがあるからな。負ける事は許されんぞ」
 緊張感があるのかないのか、分からない藩王よんたと臣下の会話である。
 よんた藩王は、そこであらためてデータを提供してくれたFVBのユキシロの方に向き直ると、信頼してくださいとばかりに頷いた。
「本格的に恩返しできそうな機会。全力で支援させていただきます」
「はあ、よろしくお願いします・・・・・・・」


(りま記しまとめる)

2007/03/18(Sun) 16:33:52  [No.32]


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