攻撃された時
悲鳴は上がらなかった。
悲鳴を上げている暇などなく
誰一人とまることなく
最後の最後までの奇跡を思って。
壊れかけた艦の中を走り回り
手動になった操縦のための計算を繰り返し
壁にたたきつけられた隣人を抱きおこし
皹の入った壁へとシートを張り付け
一人が歌いだした歌が
せめてもの希望をつなぐように、爆音の続く艦内を埋めていく。
せめてもうちょっとだけもってくれというように。
初めて飛んだ空で殺してしまうことを冒険艦に詫びるように。
冒険艦の整備に関わった水夫の一人は泣きながら回線を修復する。
ここで死んではいけない。
ひとりでも多く帰らなくてはならない。
あの大地をもう一度踏むのだ。
桜のふる庭でみなで笑いあうのだ。
政務から逃げ出す藩王様を御庭番が追いかけるのをみたい。
又笑って
みなで
「よし、全員ただちにCICに集まれ。各ブロックはすべて閉鎖する!」
かろうじて残ったモニターにうつるのは
大きな要塞とそれに向かう他の戦艦たち。
何かが変わり始めているのだろう。
遠い昔のおわりが覆されているのだろう。
なら自分達とて、ここで終るわけにはいかない。
「艦長、最後までいるとか言いそうだから、誰か掻っ攫って来い!」
「了解、後一人手伝って!」
「さー艦長いきますよ、まず生き延びなきゃ」
「戦闘情報センターからも簡易なら操縦できますから」
「もー、こんなトコで首くくっても仕方ないでしょう、腹くくってください」
厳しい顔をした少年艦長を両脇からひょいと持ち上げる。
オトコノコとはいえ少年は少年、成人したものに抱えられれば足も浮く。
とらえられた何とかのように片腕を一人ずつに捕まれてみかじだいすけ艦長がほんのわずかに唖然としている間に、両側に立った水夫は空いた手にデッキブラシを抱えて走り出した。
「みなでかえるですよ」
「王様たちは別の船だから藩国もきっと無事ですし」
「いざとなればゲートも情報の海とか言うし、タライで帰りますよ!」
「大丈夫艦長ちっこいからたらいにも乗りますって」
「水夫は海なら何処でもいけるんですから」
不釣合いなほど明るい声があちこちであがる。
目の前の終わりをはねつけるように。
転げ落ちそうな絶望なんかに負けてたまるかというように。
「生きてれば、何とかなるです」
「だから生きてかえるんです!」
あやふやな希望を必至でつかみ
誰もが絶望を蹴り飛ばそうとしていた。
死神の鎌を潜り抜ける為に。