冒険艦は大破した。
 セプテントリオンの攻撃機の猛攻を食い止めきれなかったのだ。 被弾区画は即座に閉鎖され、エネルギーは切断されたがそれでも誘爆は止まらない。
 水夫らの懸命の操舵・復旧作業にもかかわらず、艦は小爆発を繰り返しながら戦線を離脱していく。もはや脱出もかなわない。
 曲直瀬りまが歌った。
「♪我らは夢を諦めない」
 阿部火深が歌った。
「♪世界よ育てと我らは歌う」
 支倉玲が歌った。
「♪我らが望むはその世界」
 経乃重蔵が歌った。
「♪故に我らは負けられない」
 霧狗光が歌った。
「♪故に我らは死にはしない」
 が歌った。
「♪明日も子供に教えるために」
 taisaも、時雨も、天鳥船も、道化見習いも、ユキシロも歌った。
 艦橋で、艦載砲制御室で、機関室で。
 FVB行軍歌の1つである『侍心一途〜Spirits of Samurai』だ。誰ともなく始まり、合唱となった。艦内放送も既に途切れ途切れになっていたが、それでも全クルーが1つになって歌った。
「…負けらんないですよねー、畜生、少しでも修理する。うん」
 主席操縦士の天河宵が工具箱を持って走り出した。誰もがまだ諦めていなかった。消火作業に、艦体修理に、そしてハッキングされたままのシステム奪回に、誰も彼もが働き続けていた。
 けれども、艦隊からの情報を冷静に分析していたみかじだいすけ艦長は、全員に艦の放棄を告げた。
「どうしてですか!まだ直せますよ」
 そう叫ぶ天河に、時雨が自分のデータ端末を表示して見せた。
「本艦は現在ラーカウ要塞近くにまで漂流しています。この状態で要塞から攻撃を受けることはないでしょうが、味方艦隊がSコードを発信しました」
「!」
 みかじが頷いた。
「核だ。どうやるかはしらんが、味方は要塞攻略に核兵器を使うようだ。巻き添えを食らうのは確実だ」
「わかりました」
「火深さん、現在の本艦でもっとも安全な場所は?」
「食料庫……いえ、戦闘情報センターでしょうね」
「よし、全員ただちにCICに集まれ。各ブロックはすべて閉鎖する!」
 クルーたちが動く。走る。ただ生き残るために。
 戦いに倒れるのは侍の本分、しかしそれは今、ここではない。
 生か死か、運命の分かれ道はすぐそこに来ていた。
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