○ 青の厚志

 

 

「厚志」

希望号の調節を終らせた黒髪の少女が雷電と一緒に歩いてくる。
その眼差しは強く、地を踏みしめる一歩一歩があらゆる希望を呼び覚ますように力強く世界を揺るがせていた。


空は晴れ渡り酷く静かで、遠く聞こえる声は誰のものなのか、戦争中であることを忘れるかのように穏やかな風がふいている。
なつかしいあの始まりの小隊に似ていると、少女は思った。



「あ、舞。丁度よかった、お昼だよ」


少女に呼ばれたことがこれ以上無く嬉しいというように少年は笑う。
その空よりもなお深い青の髪を優しく吹く風がふわりと撫でた。




青の厚志。
ガンプオーマのリーダーであり、今代のシオネアラダ、世界の調停者。
第五世界における五番目の絢爛舞踏章受賞者にして豪華絢爛たる光の舞踏。
夜明けの船ではその名もずばり希望の戦士と呼ばれていたりもする
希望のさきがけ、そして戦場に勝利を希望を蘇らせる存在。



少女の前で背景に花を飛ばしている少年。
海よりも尚あざやかな目でにこりと笑い、エプロンとお玉を持った少年。
彼が、青の厚志である。


芝村の末姫、芝村の舞姫にぞっこんベタぼれで、彼女と離れては夜も明けないし、ついでにいうならちょっと危ない方向に壊れてしまうが、一緒にいてもぎゅうぎゅうといちゃついていて、舞姫のパンチ一発受けないと戦場にでなかったりもする、青の厚志である。



「たくさん食べてね」
「そなたもな」


ひらけた丘の上で希望号を背後にしてのピクニックのような風景。
少女についてきた雷電が日差しの暖かさに尻尾をパタパタと揺らす。
簡単でごめんね、といいながらサンドイッチと手早く作ったスープの皿を置きいただきますと手を合わせる。



戦いの弟子はいないけれど、料理の弟子なら三千世界にいるガンプオーマのリーダー。
カダヤである舞がサンドイッチを食べる姿を心底嬉しそうに見ている、お嫁さんになりたかった少年。

自分もサンドイッチを口に運びながら、今日も舞はかわいいなぁ、とぽややんな花をとばす。



その髪は空より青く
その瞳は海より青く
希望を体現する戦士。

優しく笑う目を不敵な色に塗り替え、希望号とともに世界を渡る少年。



「美味しい?」
「あぁ」

そなたの作るものはいつでも、と少し恥ずかしそうに顔をそむけ、それでももぐもぐとサンドイッチを食べる少女は頬を赤く染めている。

 

青の青
それは唯一の女性の為に生きる人外の伝説。
不敵な目をしたガンプリーダー。
希望の戦士。

そして
舞姫の笑顔が何より大切な少年。



吹く風が小さく歌った。
希望が世界を渡ると。
正義をなす少女のために青き希望が世界をわたると。


彼の名を青の厚志という。

 

(了)

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