蒼海号1番艦の大きな帆が全体に風を受け止めふくらんだ。
「下手回しだ。慌てることはない。どうせ鈍重な輸送艦だ」
「アイサー、キャプテン」
 艦長オカミチが操舵手に指示を下すのと同時に水夫たちが一斉に綱に取りついていく。ここはレムーリアに近い海域。既に通常の機械は動作しなくなっている。宙侍だったら中枢機能が停止して即死ものだ。艦には通常動力も搭載されているが、既に原始の時代から受け継がれてきた航海術の集大成、帆船システムに切り替わっている。
 ここでかつやくするのがFVBの水夫(船乗り)たちだ。彼らは一見風呂屋の三助とカリブの海賊の手下を足して割ったような装束だが、これでシャトルから冒険艦まで船と名の付くモノならなんでも操つれるのだ。
 その水夫たちが、大きな艦では1000人から、小さな艦でも何十人と縦横無尽に動き回る。そう。帆船ではマストの天頂から船底まで船乗りたちは三次元的に動き回る。そうして数百人の人間が1つの大きな機械の部品となって、風と理力と潮の流れを見極め、1000トン、10000トンの大きさの巨体を動かしていくのだ。
 現在の速度はおよそ5ノット。輸送艦の速度としては上々だが、期待されているほどの速さではない。
「見張りを3名あげろ!」
「アイサー。もう上げてあります」
「海図が大雑把なものしかない。敵だけじゃない。海の色にも注意させろ」
 珊瑚礁などがあれば海の色は茶色や黒に染まるし、砂州があれば銀色に光るだろう。
 オカミチの言葉に、若い海尉は頷いて笑った。
「ベン爺さんはベテランです。3海里先の木ぎれが浮かんでいるのだって見落としはしません。犬士の連中も手が空き次第、見張りに上げます」
「期待している」
 そう言って肩を叩いた
 艦は鈍重。どこに暗礁や砂州があるかも解ったものではない未知の海域。そして前方にはオーマが待ち受けている。
「さあ、無事に碇を降ろさせてくれ。何事もなく投錨して荷下ろしすることだけが、我々の大勝利なんだ」

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