輸送船の甲板に曲直瀬りまは立って潮風に吹かれていた。FVBからこの戦いに派遣されたお庭番(東国人+犬妖精+忍者+バトルメード)である。この世界ではほとんど使い物にならない竹箒を手に、掃き掃除をしていた。意味はないが、まあ、気休めである。それなりに緊張しているのだ。
 そこへ同じくFVBから派遣された2人の宙侍(東国人+剣士+サイボーグ+宇宙軍)があがってきた。天河宵と栗田雷一である。
「やあ、曲直瀬さん、海上監視ですか?」
 天河が手を振った。前後に続く輸送船の列、前方かすかに見える広島の山々。
「つがるおとめとターキッシュバンを見てきました。ああいうのをFVBも欲しいですねえ」
 いつでも出撃できるよう船倉でも整備が続いているI=Dの様子を見てきたらしい。
「なあに、宇宙戦ならケントの方が使い勝手が良いっすよ」
 栗田がちょっとムッとしたように口を挟んだ。2人とも歩兵であってI=D乗りではないけれど、それだけに機動力のある戦車ともいうべきI=Dが気になるのだろう。
「それでも、あの整備の仕事っぷりには惚れました。うちにも欲しいですねえ。整備士」
 腕組みして首をフリフリ栗田が言う。
 いったん上陸したら、次はいつ整備できるかわかったものではない。だからこそ整備士たちの奮闘が印象に残っているのだろう。
「で、良いニュースと悪いニュースです。どっちを先に聞きたいですか」
 にこにこと笑いながら天河が言った。
「どっちでも似たようなもんだろ? なら良いニュースだ」
「はい。曲直瀬さん、出世しましたよ」
「で、悪いニュースは?」
「それで摂政になるそうです」
「・・・・・・」
 本来FVBは摂政を置かないのが基本方針だ。そんなものを置かなくとも廃人王ぐるぐる様が24時間365日ウォッチで仕事をしているので補佐など不要なのだ。だから周囲から再三再四の摂政を置いたらという勧めにも「指揮系統が混乱するだけだから」とがんとして首を振らなかった。それをあえて置くということは?
「はい、任命状」
 曲直瀬が受け取ったその紙には大きく『曲直瀬りまを殺生に任命する』と書いてあり、「殺生」に横線を引いて「摂政」と書き直してあった。
「うーん、この戦いに負けたら責任取ってオウサマの代わりに切腹ってことかな?」
 泣き笑いしながら読み上げる曲直瀬に、栗田がそんなことはないですよと追伸を手渡した。
『どうせ負けたら全滅だから、気にせず戦ってくるといいよ。さくらつかさ』
 曲直瀬は書面をくちゃくちゃと丸めて舷側から投げ捨てた。
「がんばるぞー!」
「「おー」」
「勝って国に帰るぞー!」
「「おー」」
「「切腹は怖くないぞー!」
「「おー」」
 洋上にFVB勢の声がかすかに流れ消えていった。
 いよいよ広島。正念場である。

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