夜空を緑色の流星雨が流れた。
外宇宙から侵攻してきた艦隊によって、FVBの宇宙港が撃破されたときの破片が、重力に引かれて地上に降り注いでいるのだ。
あれはまだ正式な命名式も終わっていない港だった。V3だとか星の丸だとか宇宙要塞ぐるぐるだとか空門(そらもん)だとか勝手に呼ばれていたけれど、今はただの星の屑。あの設計図にはなかったのに、現場で勝手に付け加えられた天守閣ももう無いのだろう。
時雨は蓑傘に積もった灰を払うと、放射能防御服の姿でざくざくと花と鳥の公園へと歩いていった。辺りはすっかり灰に覆われている。
「雨が降る前になんとかせんといかんなあ」
雨が降れば大気中の死の灰が地面に流れ、そこからまた地下へと流れ込む。そうしたら地下水脈まで完全に汚染されてしまう。
道の両側に向日葵が並んでいる。そこまで来ると灰はほとんど積もっていない。FVB特産の向日葵、サンビームフラワーが空気中で焼き払ってしまうからだ。しかしそれにも限界がある。大気中に舞う灰によって日光が遮られ、エネルギーが切れかけているのだ。ゆらゆらと揺れる向日葵が、自分に積もった灰を振り払っている。
花と鳥の公園には国内はもちろんニューワールドから旧世界に至るまで、ありとあらゆる植物が集められ、それが本来生育している環境そのままに再現されている。今、ここに新しく誕生した植物が運び込まれ、適応実験が繰り返されているのだ。
その植物の名は日向葵。学名は「Helianthus annuus riwamahi seminowakas」。放射能除去機能を持つということで、リワマヒ藩国から緊急輸入されたヒマワリだった。
「どお?」
「良い感じ。南国じゃあ育つと3m強になるっていうけど、ここだととりあえず2mってとこかねえ」
そう言いながら、曲直瀬りまは蓑の下から布袋を取り出し、中から何かつかみ出すと時雨の方に差し出した。
「ほれ。収穫第1号」
それは真っ白な向日葵の種子だった。
「普通に乾燥させただけ。で、こっちがクルミとかレーズンと混ぜた甘口。もひとつ、塩煎りタイプ」
次々とヒマワリのタネを取り出しては自分もぼりぼりとかじるりま。ときどき、ぺっぺっと殻を吐き出して「これが苦手なのよね」と呟く。つられて思わず手を出しかけた時雨の動きが止まった。
「大丈夫なんだよね?」
「放射性物質? 大丈夫、大丈夫!」そこまで言って、時雨が口に含んだらひとこと。「死にゃしないわよ。死ぬまで生きるって」
思わず恨めしげに睨む時雨の肩をばんばんと叩く。
「仕様書を読まなかったの!? そういうのは、茎とかに溜まるのよ。タネは無害って確認したわよ」
「バイオ燃料くらいにしとけばいいのに」
「まあ、食糧増産は常に最優先よ。オウサマなんか、チョコレートコーティングしたのを1袋持っていったわ」

/とことん〜走るよ FVB
/どんどん〜走るよ FVB
/大好きなのはヒマワリの種
/やっぱりコケるよ FVB


時雨もぽりぽりかじった。死ぬまで生きられるなら、まあ良いかとも思った。また宇宙の艦隊と一戦ありそうだし。
「ああ」
塩味よりナッツ系の方が美味い気がした。

(りま記す)

 

(絵:阿部火深/提出済の転載)

 

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