雨が降ったらてるてる坊主を

雪が降ったら外駆け回り

桜が降ったら飛び出して宴会を

空から降るのは美しいものだけだと

遠く 静か過ぎる空の上から降りそそいだ

死の灰が地上を覆い尽くすまで

美しいものだけが空から降るのだと

無条件に信じていた。





そして門番は今日も空を夢想する。





マルジナリア






 あの日、とんでもない戦闘が起こるからと国中のものが地下へと避難した。

 動物達もできうるかぎり、何もかもを持って地下へと避難して、ただあわただしく鍾乳石がうっすらと見える天井に幾重にも跳ね返って、戦う人たちの息づかいと悲鳴とが寄せては返し、ぶつかり合って混ざり合い、一番安全な場所へと集められた子ども達の鼓膜を揺らした。

 ゆれる流れが小さな体に潜む不安の種に水を撒く前に、子どもたちは互いの不安を摘み取っている。身を寄せて、耳を済ませ祈りを。

 おーさまが無事でありますように.

 おそらのおいちゃんが無事でありますように.

 はとのおねーちゃんが無事でありますように

 思う言葉があふれるのだろう、小さな手を合わせて南無南無としている子供の声が、壁一枚隔てた場所の大人たちに聞こえるなら、彼等はぎゅと唇を引き絞って、なおさら忙しく足も手も頭も動かすだろう.


 誰が持ってきたのか、桜が壁掛けの植木鉢に一枝、みずみずしい青い葉を揺らしている。子ども達が祈る桜の木の枝は、この国最大の桜を御神木とする神社から持ち込まれたものなのだろう。それを見て胸を震わせる不安の芽を摘み取る。


 悪い言葉は口に出してはいけない、考えてはいけない、考えれば口にすればそれはにたりと笑って少しずつ這いずりよってくる、と何人か子どもを泣かせつつ怪談調子で門番が教えたのは遠い日のことではない、勿論、見回っていた機導師の一人に容赦なく杖でフルスイングされたのだが。(子どもを怪談で泣かせた為)


 地上との一番大きな通路の門番は子ども達の護衛として定位置から離れ、砂が入ったのか少し動きの鈍い指を軽く曲げては伸ばしと手遊びをしつつ、杖に寄りかかるようにして子ども達の様子をながめていた。 サイボーグ特有のリンクで中央作戦室と前線のやり取りも頭の中に流れ込んでくる。

 

 この地下からはるか上、のその又はるか上、この前ぶっ壊れた片目のシャチホコよりもはるか上での、戦いの声が聞こえる.

 

 自分と同じ物とは思えないほど小さな手が.(門番にはあの小さな手が自分のようになるのだといまだに信じられないほど柔らかであたたかい)若葉が繁枝に向かって祈りを続ける。








 耳とも心臓ともつかぬ場所で繋がった線をたどって誰かの悲嘆が聞こえた.



 悲鳴が



 空間を塗りつぶす.

 

 

 

 

「各障壁をすぐに下ろせ!!誰一人地下から出すなっ!!!」








 死の灰が




 降る.

 

 

 

 地上の全てを飲み込んで.




 ざわめきがいったん凍りつき、同じようにリンクをつないでいたのだろうサイボーグたちの悲鳴が、わんわんと反響した.








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