宇宙科学要塞は緊張の糸が張り巡らされていた。まるで蜘蛛の巣のように。

 正面の巨大スクリーンには、太陽系外から侵入してきた艦隊の姿が映し出されており、その足元では何百人という犬猫のオペレータたちがコンソールを操作して、情報の集積や分析を進めていた。
 そう、犬猫である。
 この広大な管制室を掌握する指揮所には、臨時に幾つもの椅子が追加され、各国から送り込まれた参謀たち(ときには藩王と思しき人物も含まれていたが)が詰めかけていたが、その中には見慣れた犬耳ばかりでなく、ネコ耳の姿さえ見受けられた。
 敵偵察機はFVBの宇宙ステーションを撃破している。これはFVBの宇宙戦力の要であるばかりでなくわんわん帝國の宇宙防衛拠点であり、ニューワールドを通じて最大の基地であり・・・・・・有り体に言えばニューワールドにはFVBのステーション以外にはまとまった宇宙戦力は皆無だったのである。
 ついでにいえば、これに続く陣営が出てくる気配もない。つまり、宇宙港建設には、サイボーグ>宇宙軍を経由するしかなく、まあ、燃料食いの塊になってしまうんで敬遠したんじゃないかとのもっぱらの噂。宇宙に対して採算度外視した酔狂を貫いたのは、FVBだけだったわけだ。
 かくして何千隻という大艦隊にニューワールドを包囲され、さらには月のあたりに巨大レーザー砲艦が設置されて「撃つぞ、撃つぞ」と恫喝されるに至っては、もはや犬猫関係ない。にゃんにゃん陣営からも宇宙港再建資金や支援要員が次々に送り込まれ、わんわんも彼らを最高機密の司令センターに招き入れ、一丸となってこの危機を乗り越えんという意気込みを見せていた。
 敵からの降伏勧告にある、貢ぎ物を寄こせだの宇宙には出るなとかは呑める国はあるだろうし、「卑劣な不意打ちでアラダ2名を殺害したFVBの絶滅と戦団長の処刑」もそれで済むならと当事者以外は検討したかも知れないが、全ACEの提出と没収などは絶対に受け入れられない国ばかりであった(特にFEG)。ならば、とにかく交渉で相手の譲歩と和解を引き出し、それでもダメなら戦闘ということになるだろう。
 星見司によれば今回の敵は第5異星人、第6異星人で、彼らのリューン技術からはビアナオーマと同じ反応があるという。ならばこちらも赤のアラダを交渉に送り込めと思わないでもなかったが、思いつく人物はすべて音信不通の広島にいたのである。
「さくらさん、ちょっといいですか?」
 指揮所でもっとも活発に動いていたFEGの是空王が、指揮官シートでお庭番の運んできたおにぎりとお茶でお昼ご飯を食べていたFVB王さくらつかさに呼びかけてきた。
「ほいほい」
 椅子の上に紫蘇と昆布のおにぎりののった皿を置くとちょこちょことやってくる。
「すいませんが、オレに命預けてください」
「あいよ」
 即答である。
 割烹着をぱっと脱ぎ捨て戦闘モードに切り替える。



「ああ、とりあえずは交渉ですから」
「はい」
 またそそくさと割烹着を羽織る。
「エステルさんも連れてきてね」
「あいよ」
 パンパンッと手を叩く。なんかむっつりした表情でエステルが姿を現す。

 かくして10名の外交使節団が宙へ向かったのであった。
 緊張の糸はいつしかどこかに消えていた。

(りま記す/絵:taisa)
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