エステル・エイン艦氏族・アストラーダ
”勇猛の絢爛舞踏”の名を持つ夜明けの船クルーにして、第2異星人ネーバルウィッチ。
外見12歳、実年齢140歳。と見せかけて140歳というのは焼き付けられた記憶の年齢であり、本当の年齢は不明。
ネーバルらしく操艦にかけては恐ろしい錬度を持つ。ネーバルウィッチは女性だけの種族ゆえ男性が苦手である。ねこ大好き。
時に、絢爛世界2252年。エステル・エイン艦氏族・アストラーダはネーバルウィッチの祖国に当たる大艦隊を離れ火星に工作員として降り立った。
彼女の任務は火星独立軍(ネーバル視点では反乱軍)に加担することにより、ネーバルにとっての仇敵である太陽系総軍を弱体化させることであった。祖国の復権を願うエステルは進んでこの任務に志願したが、実際の所艦失者であるエステルは体良く厄介払いされた形になっている。
――艦失者。ネーバルウィッチは艦で産まれ、一生を艦の中で過ごす。
そんな彼女達にとって艦は家であり親である。同時に艦の一部として艦の為に尽くす事こそが
彼女達にとっての存在意義の全てなのである。それ故艦を失いながらも生き延びたネーバルウィッチには居場所は無く、生きる意味すらも無いことになる。
エステルは母艦であるアストラーダ号を失ってからずっと不遇な扱いを受けており(MAKI曰く「生ゴミ以下の扱い」とのこと)、今回の任務にかつての地位と自分の居場所を取り戻す一抹の望みをかけていたのだった。
しかし夜明けの船のクルーとして過ごすうちにエステルの心境に変化が生まれる。
初めて知るゴージャス・タイムズの多種多様な知類とその価値観に触れ、ネーバルの閉じた価値観にこそ疑問を感じ始めていた。
エステルは揺れるアイデンティティと想いを抱えながら自分の居場所を得るために勇猛に戦うのである。
そのエステルが・・・・・・
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「は?」
「「え?」」
何故かFVB藩国に来ていた。否、送られてきた。ダンボールで。I=Dではない。お馴染みの茶色い箱である。
固まるFVB藩国王さくらつかさ及び藩国民らと、まるで捨て犬のようにダンボールから恐る恐る顔を出したままのエステル。
一体何でこんなことになったのか。話は少し遡る。
―アイドレス暦03307002。全国共通宝くじが発売された。
犬猫問わず多くの人間?が買い求め、結果特等の”ACE滞在権”をFVB阿部火深が見事引き当てた。
有能かつ人気の高いACEと呼ばれる人材を招く事ができるということで国民達は喜び、エステルにぜひ来て欲しいなー、ということで話はまとまり到着を楽しみにしていたものの、直後に共和国による対アラダ全面戦争が決定し、帝國も全面協力することになり、気が付けばエステルの事をすっかり忘れてしまっていた。
一方その頃、宝くじの発売元である裏マーケットでも、対アラダ全面戦争を支援するために、赤字覚悟の大バーゲンセールを開始した。そしてその忙しさでエステルの誘致を後回しにしてたのだった。
気付いた時には大赤字で予算も人手も無いという有様であり、慌てた担当者はどうにかしてエステルを探し出すと半ば強引に拉致し、FVB宛の貨物便に(文字通り)詰め込んで発送しこれ良しとしたのだ。
その後何がどうなったのか天地無用とか書かれた箱に詰められ(筆者注・ちなみにFVBで製作、販売されている「からくり和風機械人形」と間違われたのではないかとの説が有力である。(さらに筆者注・エステルお人形さんみたいで可愛いからね!))、数時間程1m四方ほどの箱の中で揺られ、敷かれていたプチプチをあらかた潰し終わって疲れて眠ってしまい、騒ぎに目を覚ましてみるとそこは・・・・・・ということで、冒頭のシーンに戻る訳である。
その後、事態を理解できず混乱したエステルと藩国王と藩国民とエステル好きの藩国民が揃って小一時間ほどぐるぐるしたあと、どうにか落ち着いて事態を把握したが、あまりに急で予想外だった事と、未だ戦時で忙しかった事もあって、きちんとした歓迎もできないという有様であった。(ちなみに王城も壊れたままである。)
事情はどうあれ、エステルはしばらくFVBに滞在することとなり、困ったのはその居所であった。
いろいろ相談した末に、オウサマの決断で地下に眠っていた強襲揚陸艦ゴースドドッグの艦長室を割り当てることにした。ここなら艦橋にも近い。
「ネーバルウィッチだから、艦の中の方が落ち着くっしょ?」
そういう判断である。もっとも眠っているとはいっても、GDはFVB主力艦隊の旗艦である。50億わんわんもあれば即刻現役復帰できるよう、普段からメンテナンスはカンペキである。さらにオウサマ秘蔵の黄金の浴槽まで苦労して運び入れたのだから、これはもうFVBとしては完璧なおもてなしである。
「これはいったいなんなのだろう?」
浴槽とセットで運び込まれた不思議な形のぴかぴか光る椅子に、首をかしげるエステルであった。
兎にも角にもエステルを迎え入れての日々がスタートした。
FVB藩国の活動指針は何をおいてもまず宇宙に還ることであり、そのためにも生粋の宇宙戦艦乗りであるエステルは大きな力となる。
そんな藩国の協力のお願いに対し、地上より宇宙で生活することが常であるエステルも快く同意してくれたのだった。
その背景には、FVB藩国であるさくらつかさが女性である事も影響していたであろう。
エステルは前述の通り未だ男性に対しては抵抗があり、特に見知らぬ土地の見知らぬ人々の中とあっては不安も大きくて当然である。
そんな中で、しょっちゅう行方をくらませてはお庭番らと追いかけっこを繰り広げるまるで威厳の無・・・気さくなオウサマさくらつかさや、エステルの身の回りの世話や身辺警護を買って出ながら何故か熱視線を送っている何よりも女性を愛すると公言する女性阿部火深らの、(検閲された跡がある)な女性達がエステルの不安を取り除くのに大きく貢献したようであった。
今ではお庭番達と仲良く談笑しているエステルの姿もよく見られるようになった。
一方エステルの男性陣からの人気は言わずもがなのストップ高であるが、若干予想していたよりも何と言うかツンツンしている印象があり、助平心をひた隠しにしつつ近づいては、毛虫を見るような目で見られたり、あからさまに無視されたり、仕事ぶりが悪いと罵られたりと、散々な結果だった。(それでもめげずに幾度も玉砕を繰り返す馬鹿者が一人いるのだが、彼については別の機会に語ることにしよう。)
ただ、エステルにとって予想外だったのはそのツンケンした態度が逆に男性陣のM心を刺激したようで好評になり、特に、口癖なのか頻繁に発せられる「あなた、それでも船乗り!?」の叱咤が飛ぶと歓喜に震えたりする者も現れ始め、エステルは男という理解不能な生き物に一層困惑するのであった。
最近ではこの「あなた、それでも船乗り!?」と言う言葉が微妙に流行り出し、再編中の宇宙軍各所で聞かれるようにもなっている。
当のエステルは意図していないと思われるが、この言葉を互いにかけあう事で藩国民達は宇宙へ還るという己の使命を強く自覚し、自分達を鼓舞しているような節も見受けられる。
いつしかエステルはFVBにとっての精神的な支えにすらなっていると言えるのかも知れない。
エステル・エイン艦氏族・アストラーダという頼もしい味方を得て、FVBは一層宇宙進出に邁進することになるだろう。
時折、エステルは皆が目指している宙を独り静かに見上げている。
FVBが誇る、季節を彩る花が咲く雅な景観の中で、その姿はとても絵になっていた。
(文:尾崎勇貴)
■エステルの肖像あらかると