「さあ、頑張って仕事しよー」
 そう言って伸びをする曲直瀬りま。星見司以外の全資格を制覇している寂水には及ばないけれど、それでも3つの資格を取得しており、とりあえず法官出仕が内定している。

 なにごともほどほどということがある。
 麗しき(ときには麗しくなくなったりもするが)勇気(だけはいつも)ある花たちの国、通称FVBにおいて、それは起家資格であった。
 その人材難によるトラブルの数々から、帝國・共和国共に出仕者の増員に踏み切ったのはバージョン0.75以後のことである。参考のために付記すれば、各藩国は国の規模にかかわらず吏族3名、法官1名、護民官1名、参謀1名の資格者を出仕させることとされた。もちろん罰金等を支払っての出仕回避は不可能ではなかったが、FVBはあえてその道を選択しなかった。
 それは鉄と血をもって帝國に献身すべし!などという格好のいい話ではなく、単に資金繰りに自信がなかっただけというのがおおかたの推測である。
 なにしろ、このFVBという国は規模としては中堅ながら、何かにつけて資金繰りでひぃひぃ言い、ちょっと余裕があると思えば罰金でたちまち国庫が空っけつになるという国である。迂闊とかなんとか言う以前に、星の巡り合わせが悪いとしか言いようがない(星見司もいないし)。
 さて理由はともあれ、出仕者増員を目前にして、藩王さくらつかさは「国民総お受験令」を布告した。誰でも彼でもとにかく何か最低1科目は受験しろというのだ。まったくもって模範的な国家である。それでもって、こういう場合は案外と右から左に聞き流したりお触れそのものに気づかない国民が多かったりするものだけれど、FVBは国民も素直だった。どうしても都合のつかない者以外は真面目に受験し、それなりに合格してしまったのである。
 かくして5月5日の時点で国民20名に対し、国民13人が吏族・法官・護民官・参謀とのべ21ヶの資格を取得することとなった。もちろん資格だけ取得して実際には出仕できない人はいるし、それは仕方のないことではあるけれど、それにしても資格取得者率は65%。平均すれば国民1人が1つは起家していることになるという数字マジック。はらしょー。
 けれども身体は1人1つしかなく、同一存在を別世界から引っ張ってくることはできないので、あれこれ悲喜劇が発生することになる。寂水・時雨といったばりばりの吏族に至っては、あちらこちらから引く手あまたの出仕要請である。契約金を提示させていたら、さぞかし国庫が潤っていたに違いない。

 今、曲直瀬は資源調達プランの作成にかかっていた。つまりは小笠原旅行のこと。
 オウサマといえども国民の意見をまるっきり無視することはできないわけで、形だけでも審議して承認を受けることが多いのがFVBである。ひいき目に見れば立憲君主制みたいなものといえなくもない。
 そういうわけでオウサマ判断として、娯楽を買い込み、小笠原分校へ行って資源を購入し、宙侍出撃の補給物資とか艦隊建造に使ったりしようということになったのだけれど、それでもまあみんなの意見は聞くのである。それがベストだとわかりきっていても、どこからかさらにスーパーベストなアイデアが出るかもしれないし・・・・・・。
「小笠原かあ。わたしがりまじゃなく、愛とかいう名前だったら喜んで飛んでいくんだけどねー」
 そんなことをつぶやきながら、みんなに説明する文章を書き上げていく。そんなりまに天戸文族2級授与の知らせが届くのは、もう少し先のことである。

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