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宇宙科学要塞 要点 周辺環境
宇宙開発センター 巨大センタースクリーン 管制官100人    巨大ドッグ  噴射試験場


【噴射試験場】
やがて宇宙科学要塞と呼ばれることになる、宇宙開発センターの施設の大部分は地下施設として作られている。
なぜ、このような施設が地上ではなく地中にあるのかといえば、ひとつには地上の風景を壊したくないという藩国国民の願いのためである。ふたつには試作品類の試運転に伴う騒音や、実験に伴う爆発(宇宙技術開発は過酷である)に伴う被害を未然に防ぐためである。余談ではあるが、爆発によって発生した爆風は宇宙開発センター近くにある百花山(旧い呼び名では百華山)火口へ誘導路を通じて導かれるようになっているため、ごく稀に煙を噴いている百花山を見ることができる。ただ、一部施設は費用対効果と安全性の問題などから地上に配置されている。3つ目には、いつ襲い来るか判らない根源種族の攻撃に備えるためで、敵の攻撃によってこれまでの研究成果やノウハウ、貴重な人材を失わないようにするためのものである。なお、巨大ドックや往還機発着場については、山に偽装された巨大な可動式隔壁に覆われており、使用時には山が割れるという大仕掛けとなっている。
しかし、何よりも忘れてはいけないことは、そもそもFVBの民は本来、天翔る一族であったということだ。
花や風を愛しながらも、生活の中心が地下の洞窟になってしまうのも、もともと閉鎖空間である都市船、宇宙艦を居住空間としていたからであろうし、そういう意味ではネーバルウイッチに近いといえるだろう。花鳥風月をこよなく愛するのも、虚空に生きる者ならではの飢餓感の反動なのかもしれない。景観を壊したくない、危険だ、そうした理由は確かにその通り。しかしそれならと施設の大半を地下に移して不平不満の1つも国民から出ないのは、FVBの民があくまで宇宙の民だからに違いない。

過日、FVB藩王にして絶対無敵ハイジンオーとも称されるさくらつかさは、この国の往く道はやはり宙にしかないと、居並ぶ家臣団に対して断じて見せた。
それからのFVBはただ宇宙をその手につかむべく全身全霊を傾けて行動することになる。宇宙軍を再建し、マスドライバーや宇宙ステーションを建設し、さらには宇宙開発センターにまで手を伸ばしていく。
この宇宙拡張路線に誰よりも喜んだのは、“人外魔境の雷帝”こと栗田雷一である。今にも宇宙を支配せんばかりに喜ぶ栗田に、“W美少年”みかじだいすけは苦笑いする。なんでW美少年かというと、みかじはまだあどけなさの残る美少年のくせして清酒・美少年を呑んだくれているからである。
ともかく、みかじはお銚子を傾けながら冷静に指摘してみせた。「うちにはパイロットがいないぜ」と。
まったくその通りであった。
今もちゃくちゃくと宇宙開発センターの完成が近づいているし、宇宙港のドックでは生産ラインが今にも宇宙艦建造に向けて動き出そうとしているのに、FVBには宇宙艦を操縦できる航宙士が1人もいなく、近い将来に育つ可能性すらなかったのである。
かつて、どうやってFVBサムライが宙を駆っていたのか、それこそ大きな謎である。


「とにかく仕事は進めとかないとな。お偉いさんは、すぐに「使えるか!?」と気軽に訊いてきやがるが、そんなわけにゃあいかないんだ」
今、彼らが携わっているのは、新型クルーズミサイル用液体燃料を使った燃焼噴射試験である。
大型重機の先端に備え付けられた新型ミサイル<桜花>の機関、最大直径はマウント部分で580mm、スカートは590mmで燃焼室は内径SR185mm。小径多段式タービンを【自己浮遊式無抵抗軸】により連結し最高回転数は120000rpmに達する。これはタービンの小型化による回転の立ち上がりを重視した設計である。
タービン単体は一体形成され、高バランスと最高回転数到達時の遠心力に耐える強度を持つ。
「いやあ、良い仕事してますね」
「まったく」


ミサイル用ではあるが、こうした基礎設計は、続く可変機開発に投入される可能性のある予備段階の意味合いもあり、一切を疎かにはできない。
燃焼室外部及びスカートは、【チタン酸ストロンチウム系層状熱発電素子】でコートされているが、それは発電目的ではなく、軸出力より取り出した電力によって冷却効果を狙っている。
ご存知のように上記物質は安価かつ高温に耐えうる物性をもち通電によって冷却素子として稼働するのである。この素子はGDのアレイドLEDレーザー基部冷却/熱量回収装置として既に投入されており、時期主力艦の設計時にも多用される事であろう。熱として放出されるエネルギーロスを最大限回収する事と、機械機能損失を防ぐ設計の細やかさがFVBの誇る職人芸の表れなのである。


【巨大センタースクリーンと管制官100人】
その者は、まだ剥き出しになったケーブルが床にあふれかえったままのホールに足を踏み入れた。年の頃は10代半ば、いや、15にも手が届いていないような幼い姿の小柄な少女だ。
付き従うようについてくる鎧武者2人にかまわず、少女は天を仰ぐ。
もちろん青空など見えない。ただ巨大なセンタースクリーンパネルと補助照明が据え付けられた無骨な骨組みが走っているだけだ。しかし、それでも必要十分な機能が備えられていることは見て取れた。
巨大なホールには管制官用に100を超えるコンソールパネルが据え付けられているが、さらに200席ほどが追加されようとしていた。帝國宇宙軍統一防空指揮センターも、ここに設置されることが決まったためである。さらにこれら管制官たちの席を見下ろすように幕僚たちの作戦ルームも建設されている。
もう一度強調しておこう。このセンター管制室ではI=D20人機を10機まで打ち上げ、帰還させることができるし、虚空より接近する天体や飛翔物を追跡することもできるが、そのすべてをFVBの管制官100人がおこなうことができる。完全に起動すれば、手元のディスプレイやセンタースクリーンに表示される情報を元に、近傍の小惑星やデブリ等の危険物体の追跡、太陽など天体の観測結果の配信、近傍の宙域を航行する宇宙船の管制を行うことになる。
しかし、この場所の機能はそれだけではなかった。
帝國で唯一最大の宇宙基地を持つが故に帝國宇宙軍全体を掌握するための機能が置かれることになったのだ。
そのために帝國宇宙艦隊司令部の幕僚からオペレーターまで専用スタッフ200人を受け入れる準備も進められている。この宇宙開発センターは、まさに帝國における宇宙科学の最先端を往く場所であり、同時に宇宙を相手にする最前線の拠点でもある。

 

※拡大して原寸で確認しましょう。他の図版も同じ。


「ここが宇宙開発センターの中枢なのですね」
「我々は宇宙科学要塞と呼んでおりますが・・・・・・雑然としていて申し訳ありません。一次検査を通らなかったものですから、カカシロイドまで動員して再点検を突貫で進めておりますので」
阿部火深が訪問客に対して、軽く頭を下げた。さらりと黒髪が流れる。火深の方が頭1つ分だけ少女より高い。
「いえ。とにかく今は機能させることが第一なのでしょう? 良い“艦”になると思います」
「期待に添えるよう、頑張ります!」
もう1人の若武者が弾んだ声で応えた。
その大声に、周囲で作業していた作業員たちの動きが止まった。その視線に気づいた尾崎勇貴は少し頬を赤らめながら、さらに大声で檄を飛ばした。
「勇猛の絢爛舞踏がお越しになったぞ。FVB武人の意気込みを見せてようぞ! えい、えい!」
照れ隠しの鬨の声であったが、それに応えて一斉に「おうっ!」の声が上がった。褌一丁で制御卓の下に潜り込んでいた技族が、カカシロイドとともにケーブルを巻き取りながら歩いていた足軽侍が叫んだ。
「えいえい」
「おう!」
上空を通過する衛星からのデータを取り込んでいた文族が、炊きたての飯を握った握り飯の乗った大皿を運び込んでいたバトルメード(この国ではより優雅にお庭番と呼んでいた)が、声を合わせて叫んだ。
「えいえい」
「おう!」
尾崎は背後でも声が上がるのに気がついた。
振り向けば、白い肌の少女が細い拳を振り上げ、他の者と同じように叫んでいたのだ。
エステル・エイン艦氏族・アストラーダは、尾崎のまっすぐな目線に少し恥じらうように振り上げた拳を降ろすと背中に回した。
「これが、これがこの艦の流儀なのでしょ? ならば私はそれに従います」
尾崎は微笑んだ。
阿部火深は両手で2人の肩を叩くと言った
「ようこそ、FVBへ!」
「共に、ここから宙を取り戻しましょう!」
みんなが駆け寄ってきた。


【巨大ドッグ】
宇宙軍の再建成ったFVBではあったが、本格的に宇宙へ乗り出すには必要とされる技術や装備、宇宙開発事業のサポートを行う施設等が圧倒的に不足していた。
いくらぐるぐる王さくらつかさが「宇宙へ行こうぜー」と叫んだところで、無理が通らなければ道理も引っ込まない。ただ、予算と人員と時間が消費されるだけである(技術的には過去の蓄積があるので、さほどの負担とはならない)。
そこでこれらの問題を一気に解消するため、宇宙開発センターが開設されることとなる。もはや必然であった。
宇宙開発センターの構内は、大きく研究・制作部門と運用・訓練部門に分かれる。研究・製作部門は、宇宙技術開発の研究を行う研究棟、各種試作品の試作場や、宇宙船の分解整備及び試作宇宙船の新造まで行うことのできる巨大ドッグを持つ工廠、試作品の試運転や実験を行う実験場等から構成される。運用・教育部門は貨物・I=D用の往還機発着場、宇宙船パイロット・オペレータ養成所、宇宙軍の出張所、管制室で構成されている。
「ドッグ?」
エステル・エイン艦氏族・アストラーダは尾崎勇貴の言葉に小首をかしげて繰り返した。
その鳶色の瞳に見つめられ、少しどぎまぎしながら尾崎はもう1度繰り返し、説明不足と気づいてさらに付け加えた。
「宇宙船ドッグです。宇宙艦工廠。まあ、発音から言えば“ドック”ですが、まあ、わんわんですから」
「なるほど。意図的に誤った発音を用い、そこから類推される連想によって円滑なコミュニケーションを図ろうというのですね」
「そんなところです。今はまだ設計段階ですが、近々宇宙戦艦や宇宙空母が建造される予定です。まあ、巨大といっても1度に何隻もというのは無理ですから、大型艦の船殻は軌道上の浮きドックで建造されることになりますね」
キャットウォークから見下ろせば、そこにはかなりくたびれたゴーストドッグの青黒い機体が点検整備を受けている。分解整備に近いし、もしかしたら解体して廃機処分にしているのかもしれない。
「無骨で旧型ですが、良いモノは良いですね」
「ええ。今でもフル装備でゼロ距離陸が可能です。その後方はひどいことになりますが」
彼らは施設の中をエステルに見せて回った。少しでも彼女にこの国に馴染んでもらうためだし、その過程でなにかヒントになることを聞き出せば即座に反映させる用意があった。
彼女、エステルに限らない。宇宙開発センターで必要とされる人々はFVBの内外を問わず募集されているのだ。
また、世間一般に広く宇宙開発に対する理解を広げる意味や、将来の人材を確保するために機密区画を除いて施設を公開し、多くの視察団や観光旅行客を受け入れている。特に人気があるのは宇宙船パイロット養成所で、訓練で使用される宇宙船の実物大模型に乗り込んでのシミュレーションや、宇宙服の装着体験ができる観光客向けの訓練一日体験コース等、子供から大人まで楽しめるものとなっている。
「今はみんな無理に忘れようとしているところがありますが、我らはもともと星の民。今後、宇宙の重要度が高まれば、この宇宙科学要塞はその真価を発揮し、我らが故郷への帰還の大きな道しるべとなるはずです」
そう尾崎がエステルに説明している間に、いつの間に抜け出したか、火深がどこからかほかほかと湯気を立てている包みを持ってきて、エステルと尾崎に手渡した。
「きちんとしたディナー、せめてランチでもと思いましたが、なにしろこのありさまです。厨房は開店休業で、作業員はみんな握り飯持参なくらいで」
「ありがとう。私はそういうことは気にしない・・・・・・これは?」
白い包み紙の中には切れ目をいれたコッペパンに湯気をたてるロングソーセージと茹でキャベツが押し込めてある。
「今、ここで用意できる唯一のメニューです」
それこそ正真正銘、ビッグサイズのホットドッグだった。

 



文:栗田雷一&曲直瀬りま
イラスト:みかじだいすけ&経乃重蔵
イラスト設定:みかじだいすけ

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