見ろよ、青い空、白い雲。

 たけきの藩国の受け入れが確定する以前から、麗しき勇気ある花たちの国では戦争準備が進められていた。根源種族が国土に侵攻してきた場合を想定したブンタン・プラン、共和国軍を想定したザボン・プランがそれであり、秘匿名ハッサクという内戦を想定したプランも存在していたとされる。

 豊かな自然に恵まれ、その自然と一体化することを何より愛したFVBの民が、なぜ地下都市の拡充に血道を上げていたか、その理由がこれらプランだった。

 たけきのこ藩王の亡命を受け入れる決定が下される直前から、参謀本部では根源種族がたけきのこ藩王を追ってくることをも想定し、ブンタン・プランをバンペイユ・プランへと切り替え、具体的な作業へと入った。幹線道路には幾つものバリケードが必要となったら即時に展開できるよう設置され、まだ田植えには早い水田に水が張られた。これは泥濘で敵の侵攻速度を弱めると同時に設置したトラップのカムフラージュの意図がこめられている。

「この田園一体に地雷を敷き詰めろ。水田、畦道、畑、全部だ」

 空になった一升瓶を振り回しながら、三梶大介がスタッフたちに檄を飛ばす。

「今まで何個敷設した?」
「約400万個であります」
「足りん。最低でも600万は必要だ」
「足軽もカカシロイドも疲労の極にあります」
「疲労は休めば直る。死んだらそれまでだ。武将でも吏師でも手の空いているものは動員しろ」

 彼らが会話を交わす背景には、ただ静かで平和な農村風景が広がっているだけだ。


「この宇宙(そら)の向こうには、何億もの巨大な化け物が潜んでいるのだ。・・・・・・だが奴らは一兵も上陸させん。奴らをこの水際で殲滅するのだ」

 田園のあちこちに立てられた有線放送のスピーカーからクラシックが流されている。普段は自然薯警報のアナウンスとか夕方に「遠き山に日が落ちて」が流れたりするのだが、今日は何故か交響曲第5番第1楽章が演奏されている。

 すでに街々からは子供の姿が消えている。お庭番の先導で疎開が始まっていたのだ。


 一方、王城では城の護りの強化が進められていた。
といっても、いきなり堀を二重三重にしたりとかの大工事はできないので、要所要所に土嚢を積んで火器を据え付けたり、補修用の資材などを各所に分散配置する程度だ。

「走れ、走れー。足を止めたときは死ぬときぞー!」
 部下を叱咤しながら経乃重蔵が駆け抜けていくのを見ながら、栗田雷一が刀をざくざくと地面に突き立てている。どんな名刀でも切れば血糊やオイルで切れ味は鈍る。ならば刀を手近に何本も用意しておいて、すばやく交換していくというのも考えだろう。

「こうなったら、いっちょ、ヴァーッとやりますか!?」
 防御陣の構築作業を指揮する時雨の言動が次第に上ずってくる。頭の動きが活性化しているといえば聞こえが良いが、単にハイになっているだけである。

「なんか、調子が良いんですよー。外道なプランが幾つでも湧いてきちゃって☆」

 誰か、こいつ止めろよと思わないでもないが、傍にいる藩王すら「油田爆破? そんなケチ臭いこといってんじゃないよ。動力炉を臨界突破させるくらい言ってみなよ!」と言動が怪しくなってきている。

「だいじょうぶだー!焦土と化しても自国じゃ!壊すのも直すのも我ら〜♪」

 遠くからかすかに経乃の声が聞こえてくる。
 ボケ役ばかりというか、性格的にはツッコミばかりの漫才コンビのような陣屋であった。

 大丈夫か、FVB?

「そのうち、なんとかなるだろう」
(りま記す)
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