「とりあえず制服つくろー!」
「おーっ!!」
 戦火によって灰燼と化した旧ほねっこ男爵領にはワールドタイムゲートが存在した。たぶん、小笠原諸島へ通じているだろうということも判明していて、鍋の国がはやばやと冒険隊を送り出してそれを確認している。なんで、帝國領内に共和国の冒険隊がどうどうと乗り込んでいるかというと、帝國宰相の計算と共和国大統領の思惑が錯綜した結果、旧ほねっこ男爵領が領土的に空白地帯になってしまったのだ。たとえていうなら、わんわんがツケで売ったつもりが相手に踏み倒されたというあたりだろうか。

 そんな状況下で、資源確保の目的か、領土権主張のためか、どっちかというと「単に冒険したい!」だけのような気がするけれど、とにかく小笠原に橋頭堡を作ろうということになった。それもこっそりということで、学校を作ろうということになり、そのためにはまず制服だ!となったのである。ちゃんちゃん。

 そこで制服コンペが開催された。
 ところが賞品の資源20万トンとかマジックアイテムに釣られたか、はたまたこれだけ悲惨な状況が続いても元気が残っていたのか、逆にここぞとばかりに発散しようとしたのか、応募総数はなんと予想の3倍、5万通!?(サバいうな、このヤロー)


「やってられないわん」
 そんなことを誰が思ったか知らないが、コンペの審査は一般投票となり、まずは上位10作品を選出することとなった。そして集計担当に指名されたのが、帝國・共和国を通じて最大の藩国、人が有り余っていて傭兵部隊を派遣して友邦を単独で支えてもなお母国の守りは十二分という超大国FEG。これはしごく当然な指名であろうが、もう1国、わんわん帝國からFVB、『Floresvalerosasbonitas 〜麗しき勇気ある花たちの国〜』、つまり我が国が指名されたのである。

「なんでよりによって!」
 曲直瀬りまなんぞはそう言って頭を抱えた。人数的にはFEGの半分である。見ても見ても終わらない制服デザインがレギュレーションを満たしているか確認し、それに対しておこなわれる何百人からの投票を集計し、また投票者に投票資格があるかどうかも確認し……って、けっこうな作業量である。

 なんか、思わず幕府が薩摩藩に命じた木曽川治水工事を思い出してしまったけれど、それくらいの難事業である。まあ、よっぽど暇を持てあましていて余力があるように見えたんだろう。もしかしたら、課題でもないのに、水着フェスティバルとか、色紙展だの武者鎧の展示とか、Aマホ掲示板セッションとかやっていたせいだろうか?(まあ、単純に順番と考えるのが正解なんだろうけどね)

 しかし、そこできっぱりすっぱり前向きに受け止めたのは、藩王さくらつかさであった。この人物、何かというと逃げ回ってばかりのようなイメージがあるが、ことあらば率先して吶喊する熱血の人でもあった。

「簡単よ。国家総動員☆」
 話を聞いて、あっさりすっきりと言い切ってしまうところが椿の国の藩王たる所以であり、またそれにぞろぞろとついて行ってしまう国民たちであった。

「じゃあ、とりあえず帝國と共和国の全藩国について国民を名簿を作成しちゃいましょ」

「まあ、住民基本台帳というか、選挙人名簿がないことには投票チェックできませんからね」

 夜もかなり遅くなってから名簿があった方が良いと気づき、「とりあえず」でいきなり作り始めてしまうところが、良く言えば臨機応変、有り体に言えば行き当たりばったりで衝動的なところである。

「ソートかけるから。名前@国@番号でまとめて」
「うぃ」
「時雨さん真ん中で動いてw。曲直瀬さんはFEGまで」

「了解。あ、雷一くんが限界みたいです」
「寝かせといてあげて」
「作業希望します」
「やります」
「お仕事まだ残ってますか?」
「こんばんは。さっき家に帰ってきた所なんですが・・・・・・・」

「こんばんは」
 みんなぞろぞろと集まってきて、わさわさと仕事を片づけていく光景に、『大誘拐』を思い出した。天藤真原作で、岡本喜八が映画化した作品だ。

 老女誘拐の身代金100億円を捻出すべく、家人使用人総出で山林田畑の登記簿や図面を集計するシーン。天本英世演じる串田支配人が「あ゛〜」とうめきながら指さすと何人もがだだだだだと走り、また「あ゛〜」と反対側を指さすとだだだだだ・。書類の散乱した座敷を右往左往・・・・・・。

 あんな感じです。

「ひゃっほーいっ! 集計できたからねるー」
 あ、最後のクロスチェックが済んだようです。
「ねてもいい?」
「オウサマ、おやすみー」
「ゆっくりお休み下さい」
 お休みなさい。
(りま記す)
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