根源種族のロボット兵器は黒煙の中に消えた。
 それは最初の1機ではないし、最後の1機でもなかったけれど、勝利には違いない。国の垣根を越えて、仲間を助け出した貴重な勝利だった。
 負傷者を救出し、損傷箇所をチェックし終えると、やっと藩王さくらつかさたちにも休息する余裕が生まれた。ぽち王女はどうなったのか、出撃した他の部隊はどうなったのかとか、まだ気になることは多かったが、休めるときに休むのも戦場の鉄則だった。
「というわけで、まあ、これでも食いたまへ」
 霧狗光たちが懐から、握り飯の包みを取り出した。
「私たちがいただいて足りなくなりませんか? 一応携行食も用意してありますし」
 遠慮がちに言う、よんた藩の坂下真砂らに、お庭番・・・・・・・つまりFVBのバトルメードはにっこり微笑んで応えた。
「いいえ、ちっとも!」
「すぐに追加を炊きますから、そうしたら炊きたてのご飯でおにぎりができます」
 そういうとお庭番たちはコクピットシート後ろの道具箱から炊飯器を取り出してくると、トモエリバー脚部の外部電源にコンセントを差し込んだ。
「戦場でもなんとかなるもんなんだ」
「お、美味い」
「さすがは米どころ麗勇花ですね」
 普段はパン食の者も多いかもしれないけれど、FVBの米を使って、お庭番が握ったおにぎりに魂が惹かれない者はいない。鮭・おかか・昆布といった定番も良い。炊き込みご飯や赤飯を使ったのも悪くないし、トンカツやチャーシューを使ったボリュームたぷりの変わり種も捨てがたい。しかし、やはりここ一番というときは、ただの塩むすびだろう。それに熱々の焙じ茶も忘れてはいけない。
「はあ、生き返るねー」
「やっぱ、うまいわ」
「ふーむ。これは意外なおいしさね。メモ、メモ・・・・・・・」
 余所の藩国の民にも喜ばれてはいるけれど、何より涙を流してむさぼり食っているのは宙侍たちだった。
「き、きょーは幾つでも、くっ、食っていいんですかっ!!」
「お、おれはもう5つ食ったぞ!」
「あたしなんか7つよ!」
「おーにぎり、せんじょーで、たーべほーだい、たーべほうだい、よーられひー」
 先ほどまでの戦火の中で瞬き一つするでなく、20Gに微動だにしなかったサムライたちが、情けないくらいにへにょへにょになっている。
 他国にはあまり知られていないことだが、サムライというのは大メシ喰らいなのである。攻撃力もある、耐久力もある。しかしいかんせん、燃費が悪すぎる。体格+3、筋力+3、耐久力+3、しかし補給ペナルティ4・・・・・・・。
 この補給量4倍ペナルティって、なによ、4倍って!?
 そういうわけで、ほとんど動かすに動かせなくなっているのがFVBのサムライたちで、そのためご飯のおかわりも1杯までという厳しい制限が課せられているのであった。まさに最終兵器である。さすがの宰相シロも出撃経費の請求に「米15俵」とかついていたら驚くことだろう。
「しかし、FVBってのは、自然が豊かなのかしら。このゴボウの醤油漬けも美味しくて、おむすびによく合います」
 いろいろ味わいながら感想を言うフィサリスに、天河宵は憂いのあるほほえみで応えた。
「ええ、まあ、そうですね。でもね、うちの国の山の幸って手強いんです・・・・・・・」
 そこでふっと溜息をつきながら天を見上げた。
「手強い・・・・・・・ですか?」
 フィサリスは小首をかしげながら、手の中のゴボウ漬けを見た。
「ええ。我が国の有名な小説に『老人と山』という本があります。1人の老農夫が山に入って85日目にようやく巨大な牛蒡を見つけ、3日間戦いつづけてやっと掘り出したものの、里に帰る途中、牛蒡は襲ってきた自然薯に食い尽くされてしまうという話ですが・・・・・・・」
「ですが?」
「あれはただのノンフィクションなんです」
「・・・・・・・なるほど」
 返事に困ってフィサリスは無難に相づちを打ってしまう。でも、もしかして、これは、私からかわれているのかしら? 迷いながら箸の先でつついていたモノを口に出した。
「では、このワサビ漬けなんかは・・・・・・・?」
 その問いかけに、先ほどまでの激戦を苦もなくこなしていた女武者の顔面が瞬時に蒼白となった。
「わさわさわびはいややー、いややー!!」
 半狂乱となって叫びだした。髪を振り乱し、泣きじゃくる。
「衛生兵ーっ!! えーせーへーっ!」
 あたりは騒然となる。

 山葵にいったい何があったんだろう?
(りま記す)
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