●とある青い夢
チョコレェトをパキンと前歯で割ると甘味の少ない渋い苦さが舌に乗った。頭上にいた相棒が揺れに負けてコロロンと二回転半の着地を決める。
相棒が何処からかもってきた(どうやって何処からかはいまさら聞く気もしない、だって相棒だもの)ほとんどカカオだろこれは、というダークビターチョコレェトを一欠けら、かじると、膝に飛び乗った相棒がパタパタと尻尾を揺らす。。
相棒は聞こえる音に合わせるように、ゆらゆらと尻尾でリズムを取っている。
ほんの僅かな戦場の隙間。
移動するその欠片、トラックの積荷のように積み上げられた人の間で、のんびりを尻尾を振る。ガタゴトゆれるトラックの上でチョコレェトを齧る。
そんな夢を見た。
と、トラックの上でチョコレェトを齧りながら思い出す。
●とある緑の夢
廊下になぜか茶菓子入れが落ちていたので拾おうとしたら、ずずず、遠くのほうに引っ張っていかれた。
足元の相棒が、茶菓子入れにくっついた紐をぐいと引っ張ると侍仲間がどさどさっと曲がり角から落ちてきた。
珍しく相棒が自分以外にがっぷりを噛み付くのを天河宵は素早く耳を両手で塞ぎ見なかった事にした。
茶菓子入れがごとごとと音を立てる。
相棒が侍仲間を追い掛け回しているのを横目でみつつ(多分そういう気分なんだろうあの相棒の)白い陶器でできた蓋をそっと開けてみると、山葵がこんにちわ、こんにちわ、こんにちわ、とわさわさわさと湧き出して。
ぎゃあああ
と、夜を悲鳴が切り裂いた。
「おーい、誰か山葵とって来て」
「いやだ、ノー、ノン、却下、拒否する、きゃ−」
調理場から逃げ出したのはだあれ。
●さくらさくら
花見がしたいな。
山の中、見つけた古い桜の木を見上げて呟いた。この戦争が終ったら、宇宙とかいてネットと呼ぶ世界に帰れたら、3日くらいぶっ通しで桜の下で笑いたい。祝い用の酒蔵あけて、これでもかって料理をつくって、国のみんなでご神木の下で、山で倒れた桜の古木を刻んで染めた着物を着て。
あぁ、他の国の人もたくさん呼んで。
そのためにも今は。
「ユキシロさあああああん、何処いったんですかああああ!!(半泣)」
侍に召集がかかると同時に、張り切って(何故か)地下情報集積場ではなく山に向かって走っていった侍仲間の名前を叫ぶ。
出撃準備しなきゃいけないんですよー、と
崩れた山道を踏みしめて、走り出した。
●さくらさくらさくらさく
磨き上げられた刀を腰に
磨き上げられた鎧をまとって
磨き上げられたかぶとを被り
具足を、髪紐を、篭手を身につけ。
やきもきと部屋の隅で膝を抱えているのはもう終わり。
さぁ、出陣だ。
我等は椿
我等は桜
我等は花
命溢れるほどに強く咲き誇れ。
散ってなるものか
春を見ずに散る花になぞなってたまるものか。
さぁ、出陣だ。
お留守番はもうおしまい。
了