よんた藩国救助ミッションに集結した顔ぶれは雑多であった。
 とにかく分秒を争うゆえ、手当たり次第に動ける者をかき集めており、その所属も装備にもばらつきがある。中には見慣れぬ装備の兵士もいたが、これについては触れない方が賢明であろう。ただ、彼らは義のために集結し、慈のためにその命を危険にさらした。それで十分だ。
 時間がないから、複雑な作戦を立案する余裕も伝える暇もない。時雨が簡単に方針を説明すると、一升瓶を担いだ三梶大介が一同の前に現れた。顔は真っ赤だが、それは酔ったためではないのだろう。一升瓶はまだ封が切られていない。
「この戦法は、急激な加速に耐えられ、かつ空間把握能力を維持できるFVBの宙侍だけが可能な技だ。お助け人の諸君は申し訳ないが、侍戦さ(さむらいいくさ)の引き立て役になってもらう」
 その言葉に一同どっと笑う。
 なあに、トモエリバーが突撃、射撃している間に、機体に取り付いていた宙侍が目標に対して体当たりして剣を突き立てるというサムライ・ストライクが選ばれた戦法だ。途中でアイドレスを狙った弾幕の破片にやられるかも知れないし、振り飛ばされるかもしれない。運良く取りつけたとしても、その後味方から加えられる弾幕の巻き添えを食らうことだってある。
 彼らの任務をひとことで言い表せばタンクデサント(戦車跨乗歩兵)であり、20世紀中頃の欧州大戦では平均寿命は1週間とも2週間とも言われた極めて死傷率の高い兵種である。現実に、それが最善の選択肢であるにしても、それを口元の笑み一つで受け入れられるとは、余人には信じられないのかも知れない。
「まったく、サムライってのはクレージーだよ」
 ある藩国の兵士が帰国してから仲間に語った言葉だ。椿のごとく、最後の瞬間まで鮮やかに咲き誇れという精神は、他国の者には理解しがたいようだ。
 しかし無駄口を叩く暇はない。
 兵士たちは即座に配置につき、トモエリバーのコクピットが静かに閉じられる。その2番機の盾に仮設された手すりに掴まった宙侍・栗田雷一が、聞こえるはずもない厚い装甲板をこんこんとノックして笑うと、やにわに大声で叫んだ。
「行け! ロボっ!!」
『ま゛』
 答えるようにトモエリバーが唸ると頭部の目がきらりと光る。
 ロケットノズルが一斉に呻り、6機のアイドレスは6人の侍を乗せたまま煙を吐きながら天高く舞い上がった。
 何Gもの加速に侍たちは微動だにせず、ただまっすぐと行く先を見つめている。
 目指すはチル。異腕の根源種族。
(りま記す)


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