終わってしまえば一瞬のことだった。
 しかし、それまではまるで3日3晩も怯え、奮い、悩み、考え続けていたかにも思えたものだ。
 敵は全長30メートルほどの人型兵器であった。生き物なのか、機械なのかそれさえも判らない。ただ、頭部の割れた部分から顔を覗かせるミサイル兵器が、その攻撃レンジの広さを垣間見せていた。
「ありゃあ、オズルだ」
 一目見るなり三梶大介が看破した。
 あの悪評高き全員水泳大会ではついに遭遇することはなかったものの、FVBの作戦参謀・・・・・・・いや、軍師である三梶は他隊の目撃談などを聞き集め、情報収集をしていたのだった。
『長距離戦で包囲しよう』
『ああ、ランスの威力なら』
 寂水と曲直瀬りまの会話を、三梶は力一杯否定した。
「ダメだ、ダメだ、ダメだ! ミサイル相手に長距離戦なんかするもんじゃない!!」
 その口調の激しさに、寂水とりまは瞬間、何を言っているのか判らなかったが、直後に送られてきたデータを一瞥して納得した。なおも「なんだったらオレの首をかけてもいい」と叫ぶ三梶の声に、寂水は監視ポイントで、りまは工業区に配置されたトモエリバーの中で、それぞれににやりと笑った。
「そんな酔っぱらいの首、いらないよ」
「軍師殿の策でいこう。よろしいか、藩王さま!?」
『OK、好きにやっちゃって』
 藩王さくらつかさの声はやけに弾んでいる。一国の主ともあろうものが、先駈けだけならまだしも白兵戦を好むとは、まったく頭の痛いことだった。
 だが、この戦、どちらにせよ負けたら国が滅びかねない大戦さだ。ならば、むしろ藩王の得手の良い方が生き延びる可能性も高くなろう。
 トモエリバーの突撃戦が開始された。

 敵が姿を現した。
 まだ視認してはいないが、先行したりまと夜狗樹のトモエリバーからの映像が転送されてきている。どこかぬっぺりしたラバー状のもので全身が覆われ、その胸の部分に目玉がぎょろりと睨みを効かせている。
「ストーカーの目よね」
 思いっきり失礼なことを呟くと、taisaは霧狗光と共に機体をアイドレス工場の中へと突入させた。になし藩国の工場としては巨大な方だが、アイドレス工場としては決して大きくはない。クレーンに吊り上げられた組立途中のI=Dのすぐ横を高速で駆け抜けるとブースト加速、肩でタックルするように正面の扉をぶち破るとそのまま急上昇、敵オズルの背後へと飛び出した。
 タイミング合わせする必要もない。
 taisa、霧狗光、そして側面から同じく急上昇してきた天鳥船が、至近距離からランスの高速小弾子を放った。その反動はの多目的ジャンプロケットで相殺する。
 オズルの咆吼。
 taisaたちは100mm砲を投げ捨てた。残弾はあるが、そんなものを後生大事に抱えていたら死ぬだけだ。
「抜刀っ!」
 代わって、すらりと大刀を抜きはなった。誰が落書きしたのか、1本1本に「がんばって」とマーカーで落書きされている。見映えは悪いがそこが良い。自分たちはこの場にいない誰かに支えられていて、そしてその誰かを守るためにこの戦場に立っているのだ。それを教えてくれる。
 全機が一斉に襲いかかった。
 さらに瓦礫と化した工場街のあちらこちらから、箒型レーザーライフルを抱えた犬士たちが姿を現し、近距離射撃を開始する。
 これがわんわんの戦い方であった。

「やったーー!!!」
 さくらつかさが叫んだ。
 オズルの巨体がどっと倒れ、まだ発射されていないミサイルに誘爆したか、全身が粉々になって吹き飛んだ。
「よっしー。三梶は3ヶ月分の酒代を稼いだよ! 他の子たちにも大浴場の回数券20枚綴りを5冊プレゼントだ!」
 高いか安いか判らない報償に、あちらこちらから歓声が伝わってくる。勲章と同じだ。その価値は、この戦いを勝ち抜いて生き残ったことを証することにある。
 だが、戦いはまだ終わらなかった。
『大隊本部からコールです。至急確認を』
 霧狗光のやや甲高い声が藩王を注意を促した。
 即座に確認する。
 酷い有様だ。
 愛鳴藩国は落盤で全部隊が音信不通。他にもこのままでは壊滅しそうな中隊が幾つもある。
「子供たち、悪いけど、もう一働きだよ」
『了解』
『あい』
『了解。残弾を確認する』
『へい、親分』
『合点承知』
「今、親分って言ったのは誰だーっ!?」
 今度は返事がなかった。
 みんな聞かなかったふりをして、手早く準備に取りかかる。幸いにもここはアイドレス工場。探せば何か使えるものがあるかもしれない。
 戦闘はこれからだ。
(りま記す)
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