○ステージ1 イベント14 食糧増産命令 (課題提出)
☆食糧増産の方法:4 「食料増産の様子をイラスト、文章に乗せる。


【食糧増産の様子:神楽】 (イラスト 希望生産量3万トン) ※文章の作業時間は70分のため申請せず。

 お神楽とは神さまに奉納するために行われる歌舞のこと。

 この『Floresvalerosasbonitas 〜麗しき勇気ある花たちの国〜』では年に3回、新年、春秋に神職らによるお神楽が奉納されるのですが、中でも春のお神楽は桜の花が咲くのを待ちかねたように、王様居住区からさほど遠くない桜の林の中で行われます。
 満開の桜の下。月明かりの下で、まだ若き巫女たちが山から神が降り、田畑に春の息吹を吹き込むことを願って舞うのです。

 舞えや、舞え
 空を舞う 鳥のよに
 歌えや 歌え
 梢にとまる 鳥のよに
 舞いの乙女の鈴の音は
 山神さまの目も覚ます

神楽舞
 12年に一度の大祭では、この神楽舞に武楽器が使われるということで、今年はちょうど大祭の年にあたるのですが、残念ながら大脱出の際に武楽器の所在が不明となったまま発見されておりません。

 なんとか春の大祭までには見つけたいと神社庁は語っていますが、こういう周囲の情勢が厳しいときこそ、春の大祭で心の翼を羽ばたかせるためにも銀鈴の響きを聞きたいものです。
(イラスト:taisa/文章:曲直瀬りま)





【食糧増産の様子:SS「飛び出したオウサマ」】 (希望生産量3万トン) 



 王様居住区から人があふれだした。
 正確には人が放り出された。
 そして放り出されたのは、藩王さくらつかさ本人だった。
 戦争が始まるぞと帝國から御下知があって、資金を10億わんわん出せという。それはいい。かなり苦しかったが、藩王の母親の着物まで質に入れて支払った。
 燃料を10万トン提供せよという。それもいい。こちらはまだ余裕があったので、補給担当者が壁にこぶしを叩きつけただけで何とかなった(その担当者は病院送りとなった)。
 次は兵隊を動員せよという。もちろん、食料とか燃料は藩国の負担だ。それもなんとかしてみた。学徒動員どころか、幼稚園のピクニックにもなりかねないありさまだが、それでもなんとか員数をそろえる目処は立った。
 そして最後に食料増産命令が来た。
 さすがにこれはきつかった。要求された数字は、『Floresvalerosasbonitas 〜麗しき勇気ある花たちの国〜』に当てはめると約17万トン。これだけの食料を追加で生産しろというのである。10万トンまでは予想して対応していたが、さすがにいきなりこんな数字を言い出すとは思っても見なかった。まあ、ハンマーは寝ている頭に振り下ろすものではある。
 しかし文句ばかりたれていても仕方がないので、ぶつぶつ言いながらも作業は開始された。だいたい要求作業量を計算すると、1日36時間操業に値するムチャな体制ではあった。でも、やってしまうところが根っからの犬なのであった。
 それもいい(良くないけど)。けれど、その結果、藩王の寝室にまでプランターが持ち込まれることになった。 目が覚めるとベッドの周囲は一面の小麦の野であった。
 藩王、金色の野に立ちて、やや憤然としながらも足下に気をつけて洗面所へと移動する。なんというか、地雷原に足を踏み入れたゲリラ兵といった感じだ。
 しかし、辛抱が続いたのも水洗便所の中に小さなカメが泳いでいるのを見るまでだった。
「執政っ! 道化見習い、説明してちょうだい!! メード長っ! 官房長官! 侍従長! 近衛師団長! お庭番総支配っ!!・・・・・・」
 やっとのことで姿を現したのは、大族の品川門左衛門であった。
「やや、なにごとでござろう、藩王さま?」
 強面な風貌の剣士だが、今日は妙な緑色の帽子を被っている。いや、帽子ではなく・・・・・・。
「お気づきになりましたか。苗でござるよ。もはや苗床を置くスペースも無くなっておりますので、こうして頭に載せておけば、日当たりは良好で作物は育つわ、それがしの首も丈夫になるわと一石二鳥でござる」
 首が丈夫になるってのウソです。
「このありさまはなによ!! なんであんたが来るの!? 執政やメード長はどうしたのよ?」
 普段とはまったく異なる口調で矢継ぎ早の質問に、門左衛門はただ満面に笑みを浮かべ、大きく頷いて答えた。
「野良仕事でござる」
 藩王の頭上に大きな「?」マークが浮かび上がった・・・気がした。
「いやはや、ポチ王女も急な食糧増産とはムチャを言われるものだが、そこをなんとかするのがFVB武士の誉れ。執政殿もメード長も官房長官も侍従長も近衛師団長もお庭番総支配も、みんな野良仕事でござる」
「みんな?」
「み〜んな、でござる」
 そうなのである。
 文字通り国家総動員で食糧増産に励んでいたのである。執政は山へ桃の収穫に、メード長はメードたちを引きつれ地下工場へ稲刈りに・・・・・いや、キノコ詰みだったかな・・・・・・。また官房長官はひもの工場に出かけ、侍従長と近衛師団長は湖で投網漁、お庭番総支配は燻製卵の増産でもう一昼夜らしい。とにかく、みーんな山に、野に、海に、川に、地下にと大わらわなのであった。
 怒り心頭に発して腕をぶんぶん振り回し始めた藩王をなだめようと、門左衛門は最善を尽くした。馬鹿正直に話したのである。
「ちゃんと、みんな藩王さまのことを気づかっております」
「ホントか?」
「はい。ちゃんと寝台の回りは踏んでも大丈夫なように麦を並べておきました」
「・・・・・・カメはなに?」
「ああ、あれはスッポンでござる。もうバケツが足りなくなりましたのでな。そうそう。肥料に使いますので、ご不浄をお使いにな・・・・・・」
「バカヤローッ!!」
 懐に潜り込んでの豪快なアッパー・パンチで品川門左衛門を金色の野に打ち倒すと、藩王さくらつかさは「うぇ〜ん、ちくしょー、ばっきゃろー、おぼえていやがれ、月夜の晩ばかりだと思うなよーっ!」などと思いつく限りの罵倒を残しながら王様居住区を飛び出した。
しかし飛び出したところでいずこも同じ。まだゆっくり寝ていられただけ、幸せだったと思い知るのにさほどの時間はかからなかった。

 まずは飛び出した先の洞窟で、メードたちによるキノコ狩りに遭遇。そりゃあ、山芋があんなんならキノコだってこんなんで(想像できない方、申し訳ありません。国防秘です)、まあ、狩りというくらいだから当然、猟銃とか山刀とか弓矢くらいは持ち出されてくるわけで、接近戦では神業を披露する藩王にしても、矢ぶすまをかいくぐり、右往左往するキノコの林をくぐり抜ける頃にはすっかりへとへとになっていた。
 ふてくされたままの逃避行であったが、その先々で猪狩りやら水蛇猟やらリンゴ狩りやら家畜小屋の大掃除とか、とてつもない難行苦行に巻き込まれることになるのであるが、それはまた別の機会に譲るとしよう。

(りま記す)(4,428バイト=約2214字)




【食糧増産の様子:SS「ある機甲侍の桃狩り】 (希望生産量3万トン)

 戦争をするには必要なものが四つある。

 ひとつは、金。
 ひとつは、人。
 ひとつは、食。
 ひとつは、物。

 以上の四つがなければ、とてもではないが戦争というのはできたものではないのだ。
 そして今回、大事な四つの内のひとつである「食」を増やせとのお達しが、この国にもきたのである。



「なぜ私はいま、桃なんぞを取りにきているのだろうか・・・・・・」
 桃のなる林目指して、山の中を嫌々進んでいく機甲侍がひとり。さきほどから、なぜ桃なんぞ、なぜ桃なんぞ、とブツブツ繰り返しながら鬱寸前である。
 だいたい、食糧増産といえば米だろう。なんで、保存の効かない桃なんぞ取りにいかねばならんのだ・・・・・・。
 辺りに生える緑の葉をガサガサ掻き分けながら道化見習いは、私はこんなことをするために機甲侍になったんじゃないんだ、と泣きそうだった。いや、もうすでにちょっと泣いていた。
 それでも道化が進むのは、近々起こる戦争への興奮と、戦争になればやはりどんなものであれ食料は重宝するという考えからである。
 こうなったら戦争で大暴れしてやる。めちゃめちゃにしてやる。突撃だ、突撃だー!!
 もうすでに、頭の中は戦争のことでぐるぐるだった。

――ガサッ、ガサガサッ、ガサッ。

 そんなとき、左の方から物音が響き、道化はすぐさま腰に差した刀に手を伸ばした。腰を低くし、両足を軽く広げ、戦闘態勢を整える。長年の経験が自然と身体をそうさせるのだ。物音がしたほうに睨みを利かせつつ、
「何者だッ!!」
と一喝を加える。
 しばらく緑の葉が揺れたかと思うと、そこから可愛らしい白兎がぴょんと一匹跳びだしてきた。
「なんだ、兎か・・・・・・」
 ほっと一息吐いた道化は刀から手を離そうとして、ふと、ある考えにいたった。
 兎って・・・・・・たしか・・・・・・食えたよな? いやいや、こんな可愛い白兎、食うなんてそんな・・・・・・ねぇ? だがしかし、いまは少しでも食料は多いにこしたこたぁなく、兎さんだってそりゃもう立派な食料なワケで・・・・・・。
道化と白兎の可愛いお目めがみつめあう。
 あっ、なんかすっごい「ボクを食べるなんて嘘だよね。嘘だと言ってよ、お・ね・が・い」って目をしてやがる。
 少しにじり寄る道化と白兎の可愛いお目めがみつめあう。
 うん、わかってるよ。わかってるさ兎さん。私がそんな、兎さんのような可愛い存在を食べるなんて・・・・・・うん、そんなの、そんな・・・・・・イタダキマァァァァァァァァスッ!!
 道化は抜刀し、白兎目掛けて跳びこんだ。
「わぁっはっはっは、所詮この世は弱肉強食ッ! 食うか食われるかしかない悲しい世界なのさッ! 出会ってしまったが身の不運ッ! おとなしく食料になりやがれぇぇぇッ!」
 キェッー! と目をぐるぐるさせて振り上げた刀を振り下ろす。だが、そこはさすが兎さん。軽いステップで斬撃をかわす。地面に食い込む剣先。
「逃がすかぁッ!」
 すぐさま地面に食い込んだ刀を引き抜いて追いかけた。
 白兎に近づいては切りかかり、切りかかってはかわされ、そんなことを何度も何度も繰り返すうち、なんとか白兎を追いつめることに成功する道化。
 目をギラギラさせた道化と白兎の可愛いお目めがみつめあう。
「フフフ、フハ、フハハハハ、ここがお前の墓場だぁッ!」
 今度こそ止めだと勢いよく刀を振りまわした道化だったが、やはり白兎に当たる寸前かわされてしまい、あろうことか、刀があらぬ方向へ――

ザクッ。
・・・・・・ウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!

「・・・・・・・・・・」
 低い唸り声をあげながら、胴体の辺りに道化の刀を突き刺した大きな猪がのそりと茂みの中から顔をだした。
 道化と巨大猪の血走ったお目めがみつめあう。
「・・・・・・あー、許してくれたりなんて・・・・・・してくれません・・・・・・よねぇ」
 ハハハ、と空笑いをする道化。
 一瞬、巨大猪がちょっとだけ微笑んだ気がしたが、そんなことありえるわけもなく、道化は一目散に逃げ始める。
 今度は、追うものから追われるものへ・・・・・・・。
 そう、この世界は弱肉強食、弱きものは食われるが定め。悲しい世界なのだ。
「って、このまま食われてたまるかぁッ!!」
 だが、そこは腐っても機甲侍。逃げるのをやめて迫りくる巨大猪に向き直ると、こともあろうか正面からぶつかりあう。
「わぁっはっはっは、機甲侍の力をなめるなよッ!!」
 押されては押し返し、暴れられては暴れ返し、振りまわされては振りまわし返す。何度もそんなことを繰り返すうち、巨大猪は疲労していき動きが鈍くなっていった。
「ちゃーんす」
 相手に隙ができたことをいいことに、猪に刺さった刀を掴み強引に抜き取る。
「今日は猪鍋だッー!!」
 高笑いをあげながら、猪の首めがけて渾身の一撃を繰りだした。

「たっだいまー」
 城に戻った道化が、気分よく猪を持ち帰ったことを報告すると、
「おぉ、それはすごいですね」
 口々に褒め称える吏師の三人。
「いやいや」
 照れる道化。
「で、桃は?」
 吏師のひとり、支倉玲が笑顔で尋ねる。
「え?」
 きょとんとする道化。
「桃ですよ、桃」
 別の吏師、時雨も笑顔で尋ねた。
「い、いや、その、だから猪をだね・・・・・・」
 こめかみの辺りに一筋の汗が流れる道化。
「やっぱさ、桃、がないとねぇ〜」
 最後の三人目、寂水も笑顔で桃を求めてきた。
「うん、その、猪相手にするのが精一杯でして・・・・・」
「まさか、とってくるの忘れた、なんていいませんよね」
 どこまでも笑顔の支倉。
「桃、美味しいですからね」
 どこまでも笑顔の時雨。
「俺、桃食べたいなぁ〜」
 どこまでも笑顔の寂水。
「・・・・・・・」
 鬼だ。いま、私の目の前には鬼がいる・・・・・・・。
 道化は後ずさりながら、逃げるために彼らに背を向けた瞬間、
「ど・こ・へ、逃げる気かな」
 支倉が背後から道化を羽交い絞めにし、耳元に甘く囁く。
「は、はな――」
「駄目ですよ道化さん。お仕事はちゃんと果たさないと」
 道化の前に立った時雨が、微笑みながら話しかける。
「仕事って、だから猪――」
「私たちが求めてるのは、桃ですよ、も・も」
 寂水がゆっくりと、念を押すように言い放つ。
「さぁ、いますぐ、桃、取ってきてもらいましょーか♪」
 三人が徐々に道化の顔に顔を近づける。
「誰か、た、助けてくれぇぇぇぇぇッ!!」

 道化の叫びも虚しく、三人からお仕置きを受けたあと、道化はもう一度、その日中に桃を取りにいかされたのであった。

(5,249バイト=約2624字)



【食糧増産の様子:報告「FVBと酪農」】 (希望生産量3万トン) 

 海岸線沿いに広がる放牧場での酪農は、塩分を少し含んだ海風の影響で味のしっかりした肉牛を産出することができます。

 海の側、風を遮る防風林を越えるとそこにはなだらかな丘が広がっています。目に入って来るのは赤い屋根のサイロと草をはむはむとしている牛達の姿でところどころに違う動物の姿も混じっていたりします。

 緑の中をぽつぽつと動く人影は随分と力強く草を集めては、サイロにつむ為に一箇所に集めています。たまにその人影には片腕や片足、もしくは両腕や両足が微妙にぎこちない人が混じることもあります。牧草集めは手足の神経のリハビリに有効なのだと誰かがいったからです。

 ちぎれた草の匂いはどこか遠く夏を感じさせ、吹く風は冷たいけれど、その風景はどこかほっこりと暖かく。きっとその風景すべてが新しい手足と心を繋ぐのだと誰かがいいました。


 朝日が昇り始める頃、酪農を行なうこの丘の一日ははじまります。まずは牛達が生活する牛舎の掃除、次は餌。餌をやるにも順番があって、見回りに来る機甲侍などはフルコースだな、と笑っていました。牛達が食事をしている間にせっせと牛乳を絞って集め、その分は新鮮なうちにと母屋に運ばれ、牛たちはのんびりと丘へ歩いていきます。

 牛達がのんびりと寝そべり、たまにちょうちょを追っかけたりしている間も人に休む時間はありません。

 朝に集められたミルクは仕事のあいま合間にチーズになったりヨーグルトになったり、脱脂粉乳になったり、ついでにミルクプリンにもなってみたりした。ついでに言うと牛乳もいつも通り大きく厚いガラス瓶にたっぷりと、そして蓋が閉められています。

 毎日見回りに来る機甲侍に渡せば新鮮な牛乳はきちんと藩王様や居住区の人の口に入るでしょう。


 絞ったミルクの加工が終ると、次の仕事が待っています。牛にかまけて
ばかりいると他にもいる動物達がすっかり拗ねてしまうからです。まずは一番近くにいた羊を暫くなで繰り回し、次に山羊も同じようかまおうとして角で威嚇されて諦めました。いわゆるツンデレという奴です。後日それを聞かされた犬忍は微妙な表情をしました。

 羊と山羊のお乳も搾りますが、直接飲むにはちょっと癖があるためチーズとヨーグルトに加工します。これなら料理にも使えますし、何より長持ちするのです。


 次はうさぎとアヒルと鶏です。卵は朝一番に収穫してある為、のんびりを餌をやり、小屋の掃除をします。兎もアヒルも鶏も、小屋掃除のために戸をあけると一目散に緑の野原にかけてゆきます。彼らにとってはご馳走の山なのだからなぁ、としみじみ思いつつ、人もこの緑を食べられたらいいのになぁなんて半分以上本気なことを思いながら餌と水を取り替えてやります。緑をおなか一杯食べるとしてもなにがあるかわかりませんから。


 次に向かうのは厩舎の裏っかわに作られた、食品加工のための工場です。
この国で取れる様々な野菜はそのまま食べても勿論美味しいのですが、如何せん新鮮さは長持ちしないものです。ここではどうにかやって美味しいままに食べ物を長持ちさせようと日夜努力されています。厩舎の裏に作られたのは牛乳や卵もその対象に入っているからと、つまみ食いしに来るには少々不便な場所だからでしょう。藩王居住区での実験時はよくサンプルが無くなり、どこからとも無く悲鳴が聞こえたものです。あの頃は若かったので発想が豊か過ぎました。

 切干大根や、切干株、切干ジャガイモ、切干かぼちゃを掻き分けて中に入ると、大族の一人が白菜を前に唸っていました。この白菜に代表される水気のある野菜をどうやったら美味しく保存できるかが最近の課題なのです。とりあえず漬けてみたり、干して漬けてみたり、お漬物もキムチも大変美味しくできるようになりましたので、次はどんな物を作ろうかと二つに増えた頭でなやみます。

 二人の頭上で乾いた玉蜀黍と唐黍が、コツコツンと風でゆれました。

 夕方までの話し合いの結果、缶詰を作ってみようとのことで意見の同意を得ました。だから明日は白菜の缶詰をつくります。牛舎に戻ると太陽が落ち始めて寒くなった牛達が暖かい寝床に次々に帰ってきます。最後の一匹までがちゃんと自分の部屋にもどったのを確認して扉をしめると、次はもこもこの羊とツンデレな山羊もおうちへとかえします。兎はそのまま巣穴を作りそうになるのでいつも捕まえるのが大変ですが、鳥は鳥目なので、アヒルの鶏が捕まえやすくなりますのでイーブンといったところでしょうか。


 卵は半分を生で使い、もう半分は燻製にするので、持っていくのに割れてしまわないよう柔らかなケースに詰め込みます。見回りに来るのが機甲侍でよかったと思うのはこんな瞬間です。どれだけ詰め込んでも大丈夫そうですから。
(本人達に言えば激しく否定されるでしょうが)

 この牧場で飼っている牛は乳牛だけではありません。食肉用の牛達もまた、かっていますので彼らの命を頂いた日にはその命を精一杯食べられるように余すところ無く加工いたします。肉は勿論、ちょっとしたくず肉はソーセージに。骨はたっぷりのお湯でだしをとってコンソメの缶詰に。(牛の頭蓋骨マークの缶詰)、皮はまた別の工場へと運ばれて牛皮として色々な場所に使われます。

 今日も一日ありがとうございます。と大地へのお礼をいうことで、牧場の一日は終ります。

 そして又、太陽と競争をするように起き出して忙しい一日が始まります。

(4,566バイト=約2283字)


自然に親しむ『Flores valerosasbonitas 〜麗しき勇気ある花たちの国〜』の民にとって、また海も命の恵みを与えてくれる場でした。
 とはいえ、この藩国の民にとって、今までは海はあまり馴染みのない世界であったことは否定できません。これほど豊かな海に恵まれてはいるものの、漁業はそれほど盛んというわけではなかったのです。
 何か晩ご飯のおかずが一品二品欲しいと思うときに、ひょいと釣り竿や投網を担いで出かけて行って・・・・・・そんな存在なのでした。
 それはあまりに海が豊かすぎるがゆえでした。

【釣り】
 男は岸壁に座っていた。
 ひょーいと、竿を振って針を海へと投げ入れる。
 餌はその辺の石の下にいた。

 男の背には生み風を防ぐ為の林がある。
 塩分を含んだ風は、人が育てる花をからしてしまうからだ。
 その木々は太く、どっしりと根を張って天へと伸びていた。

 男はぼんやりと空を見ていた。
 竿を伝わる振動は風のもので生き物のものではない。
 脇で転寝をする犬士の鼻先を潮風がからかった。

 日が落ちようとしていた。

 男は、釣った魚をケースに収めて、犬士の鼻先を突っついた。
 ぷし、とくしゃみをして犬士が目を覚ますと竿をかたずけ、立ち上がる。
 ずっと座っていたため僅かに体が軋んだが、きにせずの大きく伸びをした。

 ケースの中で、魚がびちびちと跳ねた。
 犬士がぷし、とまたくしゃみをする。
(報告者:天河宵)

 しかし、そうした光景も急速に変わりつつあります。
 既に戦争は身近なものです。戦闘中にお腹が空いたから、ちょいと釣りにでも・・・・・・というのは無理な話です。人々は、普段から備蓄できるもの、保存できるものをという考えで海を見るようになってきました。ちょっと寂しくはあります。
 では、ブロック5の海岸エリアを散策して、人々と海の様子を見てみましょう。
 朝の7時ほどになると、前夜出港した漁船が次々に港に戻ってきます。
 甲板から見える漁師たちの笑顔。大漁旗が無くても満足できる水揚げだったことは容易に想像がつきます。

 海岸通りに小屋が並んでいるエリアを散策してみよう。
 堤防沿いにぽつりぽつりと小さな小屋が並んでいる。そこからちょっと生臭い魚の香りがかすかに漂ってきます。
 ちょっと足を止めてのぞき込んでみましょうか。
 がらりと戸口を開けると、中はコンクリート打ちされただけのがらんとした1つの部屋です。窓だけは大きくて明るいのが印象的です。
 その片隅に薄い木箱が何段にも積み上げられており、何人かの年配の女性たちが椅子に座って作業をしています。魚を開いているのです。
 魚河岸からあがった魚が運ばれてくると、女たちは小さなナイフでちょちょいと魚を開いてはらわたを抜いていきます。木箱から魚を取り上げ、ぴっと割いて、ぱっとはらわたを抜いて積み上げる所要時間は1尾あたりでせいぜい5秒。端で見ている分にはずいぶん簡単そうだけれど、実際は熟練の技だし、それを何時間も続けるのは決してラクな仕事ではないはずです。
 でもスルメイカよりはラクだよとおばちゃんたちは笑います。あいつら往生際が悪いからと。
 さて、開かれた魚が傍らのバケツに山盛りになった頃に、年老いた男が外から長靴姿で入ってくると、ひょいと持ち上げてまた出て行きます。
 バケツに入った魚は、この老人の手によって天日干しするべく、風通しと日当たりの良い場所にずらりと並べられていきます。これらはすべて無添加です。中でも天日干のあじ干物は絶品で、噂ではにゃんにゃん共和国の晩餐会で饗されたこともあったとか。
 魚がずらりと日光浴をしている隣では、同じくワカメやコンブといった、ビタミンミネラルが豊富な海の植物たちが保存食として乾燥加工されています。こちらの世話をしているのは、どちらかといえば小さい子供たちです。それを監督するはずの、おばあちゃんが突堤に腰掛けたままうつらうつらしているのはご愛敬でしょうか。
 こうした光景は昔から見られはしましたが、最近では受注量が増え、出荷量が倍々ペースで増えていっているそうです。そのうち、海が荒れはしないかと心配する声もありますが、まだしばらくは人々の食卓を賑わせてくれるはずです。
 一方で、育てる漁業も軌道に乗りつつあります。
 ブリやヒラメなどの養殖も始まっていますが、あまりにも平坦で凹凸のない海岸線なので、普通に生け簀を設置することは難しいようで量は思ったほど増えてはいません。それよりも有望視されているのがウミガメの養殖です。
 天気が良く、波が穏やかな日にブロック6西の海岸地帯へ行くと、トータス・ガールと呼ばれる海亀飼いの少女たちが色とりどりのウェットスーツを着込み、イルカにまたがってカメを放牧に連れ出しているのを見かけることができるでしょう。
 きゅうきゅう啼いているイルカと、きゃーきゃー叫んでいる少女たち。その光景には食料がどうとか、戦争がどうとか考える以前に、人々と自然のあり方について問いかけられているような気がします。

【食糧増産の様子:SS「イルカに乗った少女」】 (希望生産量3万トン) 


ぞうさん ぞうさん
お花がうまいのね
そうよ カメさんもうまいのよ
         (FVB労働歌)

 曲直瀬りまは犬忍者でした。
 本当はバトル・メードさんだったのですが、国をあげての敗走のどさくさに転職をやむなくされたのです。今は犬忍者です。やっていることは同じですが、今まではふりふりのエプロンドレスで飛び回っていたのですが、今は森林迷彩の忍び装束で地べたをはい回っているわけで、なんとなくレベルダウンしたという思いが残ります。
 しかもいつの間にか国の予算も左前で、任務といっても「ハツカダイコンの種を届けてくれ」だの「石油の出そうな土地を見つけてこい」とか、なんだかよくわからないことばかり。なんというか、信用金庫に勤めていたはずなのに大口の取引先が破綻したあおりでリストラされ、建設会社のパート事務にありついたものの、談合を摘発されて業務停止・・・・・・って感じでしょうか。
 なにげなしに回想しているうちに、なにかイヤな気分になりそうだったのを、ぶるるっと頭をふるって打ち払うと、りまはするりと衣を脱ぎ捨てて生まれたままの姿になりました。そして、また足下のウェットスーツに足を通してくいっと持ち上げ、首筋まできゅっとジッパーを引き上げます。
 文字通り、身が引き締まりました。レモンイエローに黒いストライプが2本入ったソフトポリエステルのスーツです。きゅっと締まった腰に、小さなお尻とささやかな胸。良いも悪いも身体のラインがすべて出てしまいますが、そこはあえて気にしないことにしました。
 気持ちだけは胸を張って更衣室のドアを元気よく開けると、そこにはメード時代からの部下が待っています。
「班長、遅いですよ」
 鼻筋の傷が消えきらない長身の少女がにっかと笑いました。
「予定通りよ。焦りすぎてはダメ」
「さっさと始めましょう」
 3人目の少女が肩にデッキブラシを担いだ姿でぼそりと言いました。その様子は彼女が対戦車ライフルを担いでいた姿を彷彿とさせます。
 外は少し肌寒い陽気でしたが、日差しはしっかりと少女たちを包み込んでいました。
「よし。作戦開始だ。追い込むよ!」
「任務了解」
「了解」
 目の前に広がるのは白い砂浜。そこにごろごろと寝そべっているのは何十頭もの海亀の群。
 そうです。バトル・メードから犬忍者へとトラバーユした彼女らは、今週はこのブロック6西の海岸地帯で臨時に海亀の飼育を担当するトータス・ガールを務めていたのです。
「あ〜、アカウミガメ、アオウミガメ、キウミガメ!」
「アカウミガメの肉は不味い。キウミガメはいない」
 彼女らはデッキブラシを手に、カメたちの中へ突進していきました。
 カメって食べられるのか?と海に縁のない人はいうかもしれませんね。でもちゃんと料理すればなかなか美味しいのです。
 一般的に有名なのは煮込み。とにかく甲羅以外をぶった切りにして煮込むというワイルドな料理。最近はシチューのように味付けするのが流行ですが、りまは逆に甲羅をとろ火でことこと煮込んだコンソメスープの方が優しい味で好きなのです。
「ステーキもうまいらしいよ」
「刺身とか寿司にするのも好きだ」

ぞうさん ぞうさん
だれが 寿司なあの
そうね かあさんはステーキなのよ
            (FVB伝承歌)

 でも、今は戦時でそんなことは言ってられません。
 今から彼女たちは東海岸の加工工場までカメを連れて行くのです。
「こいつらジャーキーになっちゃうんだぜ・・・・・・」
「残りはシチューにして缶詰。無駄はないけどね」
 海亀の大移動が始まりました。
 開拓末期アメリカのカウボーイのようですが、カウボーイと違い、彼女たちが乗るのはイルカです。まあ、バトル・メードとしては一流、犬忍者としては二流の彼女たちですが、イルカ乗りとして初心者も同然。それでもなんとか格好がつくのは、イルカたちに乗せてもらっているからです。
 何頭ものイルカたちが仲間同士で声を掛け合い、泳ぐカメをかりたて、めざす方向へと誘導していくのです。
「うーん、まあ、なんだ」
「班長、それは言ってはダメっ!」
「これ、私らではなく人形を乗せておいてもいいんじゃない?」
 言ってしまったという顔の部下2人を前に、りまはにんまりと笑いました。
「まあ、休暇と思って乗せてもらおうじゃないさ」
「はーい」
「うす」
 白い波頭が太陽にきらりきらきらと輝きます。
きゅういきゅいーと啼くイルカたちは彼女たちの水先案内人。
 途中で海藻食べさせたり水遊びしながら,彼女たちのキャラバンの旅は始まったのです。
(4096バイト=約2098字)