首都西北西の沖合に位置する小島の1つ、空島の中央に、質実剛健たる平城のような建造物がある。人々はそれを酷試館と呼ぶ。
 毎年春秋の新月の夜には、麗しき勇気ある花たちの国の本土からこの島に大勢の男女が集まってくる。ここで開催される舞踏会に参加するためだ。
 日が暮れてくると、街々の通りという通りには灯りがともされ、提灯が軒を連ね、建物のすぐ外にまでテーブルと椅子が並べられて人々は呑み、食い、語り、笑う。
 串に刺した鶏肉を焼く匂いが辺りにまで漂ってくる。タレの焦げた匂いだろうか。反対側からは煮詰めた赤味噌の香りだ。
 あと数刻もすれば出場選手用の入場門が開かれ、さらに間を置いて一般の観客が迎え入れられるだろう。開始は深夜だ。決勝戦は夜明けとなる。
「でもお、はっきり言ってしまえば、武術大会じゃあないですか。なんで舞踏会なんて呼ぶんですか?」
 今回は観戦に回ることになっているtaisaが隣を歩く巨漢に訊ねた
 男はトントロ串をぐいっと頬ばりながら答えた。
「それは我らの決意を示し、受け継いでいくためよ」
 品川門左衛門はそういうと、フルーツかき氷の屋台を物色していた天鳥船の肩を叩いた。
 天鳥も一瞬何の話だったかと考え込んだ後、うんと頷いた。
「そう。我ら花の民が未来永劫、絶望と戦う一筋の光であろうとすることを忘れないための誓いの舞踊さ」
 そこでtaisaも納得がいって、大きな笑顔を見せた。
「その輝きは豪華絢爛!」
「人より生まれた身に過ぎねども、その心は常に天空を見つめ、努力を積み重ねるのじゃ! 災厄を食らう天敵とならんがために」

 刻限となる。
 大門が一斉に開かれて、手に手に飲み物の入った容器や軽食の包みを持った人々が入場し始める。男も女も、老人も子供もいる。今宵ばかりは、まだ甘酒も飲めない子供たちにも(できるものなら)夜明かしが許されるのだ。

 酷試館の会場の中央には試合場が設けられ、すべてを見下ろすように藩王の桟敷が用意されている。それは藩王の権威を誇示するためというより、藩王が勝手に飛び出して試合に乱入しないよう隔離しているのだという説が有力である。だってほら、桟敷席に鉄格子がはまっている。
 藩王さくらつかさが桟敷に姿を表した。
 満場の喝采。拍手。口笛。野次。風船。ビニール傘。てんでばらばらなトランペットのファンファーレ。愛されてるなあ。
「さあ、この上もなく優雅な舞踏を踊ろうではないか。豪華絢爛たる光の舞踏を見せてくれ!」
 さあ、絢爛舞踏会が始まる。
 誰が夜明けを呼ぶことになるのだろうか。


This page is 舞踏会の夜.