何度目か数えるのも飽きたくらいに雪が降った次の日、機甲侍たちは何故か山にいた。

「……何故に?」

 呟いた男性陣に答える声はない。
 先頭に立った(押し出された?)オカミチの手で、桜の華押のおされた紙がパタパタと音をたてた。




――― 一方そのころ

 藩王居住区の中庭にて、阿部火深はせっせと蒸篭を火にかけていた。横ではユキシロが真面目な顔で、ぱかんぱかんと薪を割り、石組みのかまどにの火加減を見ながら放り込む。
 みぎー、みぎゃー、となにやら唸りつつ(猫っぽいなぁ、と誰かが思ったが口に出されることは無く)天河宵が石造りの臼をひきづってくる。


「おー、でっかい。よくありましたね」
「うぬ。シシオドシの下の奴、掘り起こしたの」
「ご苦労様ぁ」


 かくそばから冷えていく汗を拭い、天河がごしごしと臼を洗う。水につけてあったとはいえ(からこそ?)食べるものを作るからには綺麗にしないと。


「…しかし何故に餅」
「雪って餅っぽいよね」
「………山組大丈夫かしら」
「あー…」


 三人は図ったわけでも無く一斉に山のほうを見た。
雪曇の僅かに白い視界の中、そびえる休火山は深い緑に覆われている。
冬には人里への思わぬ来訪者がいたりもするのだ。


 そのために山へ放り込まれた面子に内心南無ーと手を合わせ、三人はせっせと準備をはじめた。
早くしないと夕飯に出せなくなってしまう、藩王様には一番美味しい時に食べてもらいたいじゃないか。



――――視点は戻って


「猪退治だ!」
「おー」
「おー…(帰りたい)」


 上から順に、道化見習い、オカミチ、栗田雷一である。
畑を荒らす大猪退治が藩王まであがってきた時(あたりまえながら)摂政である道化見習がそこにいたのが運のつき。サムライなら一発だよね☆と刀と一緒に、ぺい、と放り出されたのである。(ちなみに犬忍たちはお菊さんとお露さんに引きとめられた、藩王の見張りのため)


 藩王の机の端っこに、冬こそ鍋!とか書いてある料理雑誌が置いてあったのは見ない事にする。


 まぁ、冬だし鍋もいいよね、とこっそり畑の白菜を調理場に置いてきたのも細かいことである。



「さぁて、猪はどこだ」
「地図は」
「はっはっは、ない!」



―――(五分ほどお待ちください)



「さてと」


 パンパンと手を叩きつつ(気分的なものだが)三人の機甲侍がリンクを繋ぐ。一人はちょっとボロボロだが、まぁ、機甲侍たちのじゃれ愛はいつもこんなもんなのでたいしたダメージはない。


 とにかく地下にある情報集積所に繋ぎ被害の訴えが上がってきた場所を脳内の地図に書き込む。


「ここ数日」
「東の森か」
「ここから近いな」
「むしろここだな」
「…円の中心だな」


 ピコピコと点滅する赤点は、自分たちがいる場所をぐるりと囲むようにまんまるく、一際でっかい赤点がピコピコ点滅しながら、こちらに向かっているのが。


「…何か聞こえないか?」
「!」


 ぶるぶると首を振る機甲侍は、かたくなに前を見ている。その横と向かい側にいたもう二人が、生温く視線をあげた。そして、瞬時に鯉口をきる。


キィン、とつめたい空気を切り裂くように鋼が高く鳴いた。


「エサ、少ないですしね…」
「猪は雑食?」
「よっし、今日の夕飯!!」


 どど、どど、と地を駆り立てる音。
 たたりがみがー、と誰かが叫んだが残り二人からキッチリを無視される。
どこから現れたのか、確かに普通よりも二回り程大きな猪が真っ直ぐにこちらに走ってきている、まさに猪突猛進。そして、脳内でピコピコ点滅していた、赤点、すべてが、こちらに突っ込んでくるのがわかる。


たおしに来たのは大猪なんですが!
何故一族郎党でイラッシャルのですかっ!!?


雪を跳ね上げて突撃してくる大猪とその家族たちに対するは、今日の夕食の為に刀を振るう、機甲侍。


果たしてその勝敗はッ!!




――――― 一方そのころ


「…なーんて感じだったりして」
「…それは、普通に危ないんじゃないですか」
「ぺしゃん、と雪崩れてたりして」


 とりゃー、と気の抜ける声と裏腹に、ぺぺぺぺ、という速度で餅をついていたユキシロは、人まず杵を下ろして、ふう、と息をついた。
 阿部火深は横の方でつけた御餅を丸めつつ、つまみ食いに来た犬忍を撃退し、(なんか藩王様が混じっていたのは気のせいなんだろうか)天河は餅の合いの手の間しゃがみこんでいたため、随分とこった体を伸ばしている。


 御餅はできたし
 野菜は帰ってきてから切ればいいし。
 鍋の準備もできたし。


 餅つき班の三人は猪討伐隊の帰りを待ちつつ、又餅つきにと戻った。


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