「戦さじゃ、戦さじゃ!」
「ポチ王女も自ら出陣されるそうな」
「そりゃデマだ。親征されるのはうちの藩王さまじゃ」
「それこそデマだよ」
「親征とかいって遊びに出かけているにちげーねーだ」
 人望がありませんね。





 さて、麗しき……以下略、通称FVBにおいても戦争の準備が進んでおりました。

 根源種族に追われ、やっとの思いで母国を再建している藩国です。戦さの準備に怠りがあるわけではありませんが、それでもなんとか生きるための生活環境が整ってきたばかりです。万全の備えとはいきません。

 しかし戦時法の適用が開始され、帝國あげての戦争体制となりました。この動員令で「啓の間」(地下参謀本部のこと)は大わらわです。予備役にまで動員がかかり、老人会や傷病軍人会の面々まで公共機関の運営維持や生産施設の現場へと狩り出されました。

「じゃあ、坊主。あとは任せたぞ」
「うん。父ちゃん、いってらっしゃい」
 居住区では、父親がまだ小学生の息子の頭を撫でています。まだ幼い妹2人と共に家の守りを任せないといけないかと思うと心が痛みますが、母親も管制員として動員され帰宅もままならないのですから仕方がありません。

「何かあったら、裏のおばちゃんに頼んであるからな」
「うん」
「サンビームフラワーに水やりを忘れるな」
「うん」
 まだ群れ意識が強く、相互扶助の精神がしっかり根づいているからこそ出て行けるのです。父親は電磁槍をひょいと担ぐと具足姿で基地へと走り出しました。燃料節約のため、動力付きの交通機関は運行制限が始まっていたのです。



 一方、どこもかしこも大わらわではありましたが、中でも悲惨だったのは財務省ともいうべき「水晶の間」でした。いきなりの通達で資金10億が必要だとか燃料10万tを供出しろだとか、パニック状態です。革命状態と言って差し支えないかも知れません。

「応分負担を考えろ! 我が国のどこをどうしたらそんな予算が出るのだ!」

「藩国が破綻しちゃうっ」
「藩王さまの着物を質に入れるんだ!」
「それより先に黄金風呂を鋳つぶせばいいだろうが!」
「わしゃ、そっちの方が怖い」
「戦時国債を追加発行すりゃいい」
「国民には、もう、買う余力もないわ!」
「みんな星になってしまえーっ!!」
 書類が乱れ飛び、算盤や文鎮が投げつけられ、人の汗や息で室内にはうっすら白い靄がかかってみえます。けれども、その怒声の応酬もやがて下火になりました。別に何か解決策が見つかったわけでもなければ、疲れ切ったわけでもありません。口を開けるたびに何か水滴が飛び込んできて、それがやたらしょっぱかったからです。うぇ〜。

 だから、単にみんな無口で、さらに不機嫌になっただけでした。



 地下の軍工廠、「金剛の間」はまだ楽観的でした。今さら慌てても仕方がないというか、既にいっぱいいっぱいが常態だったので、今まで通りにしかやりようがなかったのです。

 バトル・メード装備や強襲揚陸艦の新造はもちろん整備作業も棚上げされたままです。動くものは現時点では1つもありません。図面すら根源種族出現前に引きかけだったものが放置されたままです。とにかく今は、防衛用装備と機甲侍、犬忍者、吏師らの装備の開発と配備で手一杯だったのです。

 もちろん、それは彼らが沈着冷静でいたということではありません。

「あのさあ、オレさあ、この騒ぎが一段落したら、天井都市をミサイルに改造しようかと思うんだ……」

「ビルが火を噴いて頭上から落ちてくるってか?」
「地下空洞の天井から、吏師居住区とか厚生局ビルとか振ってきたら楽しいだろうなあ」

「ヒッヒッヒ」
「イッヒッヒッヒ」
「うししししししししししししし」
 もう、十分にイッちゃってるようです。困ったモノですね。



 そしてここに至って藩王さくらつかさは放送で演説し、全国民に、わんわん帝國全土へと語りかけたのです。

「私は藩王会議でこう言うでしょう。私は、血、労苦、涙、そして汗以外の何も提供するものはありません。私たちの目の前には、何ヶ月もの長い努力と睡眠不足が多数待ちかまえているはずです。私たちは最後まで戦い続けます。我々は冬の京で戦います、私たちは宇宙で戦います。私たちはどんな犠牲を払おうとこの藩国を守ります。私たちは海岸でも戦います。私たちは水際でも戦います。私たちは野で、街頭で、坑道で戦います。たとえこの藩国の大部分が焦土と化し飢えに苦しもうとも、私たちは決して降参しません。楽しむ気持ちも忘れません。ご飯もおかわりしません、勝つまでは。私たちの新世界が安泰なものとなるその日まで、私たちは努力を続けるでしょう!」

 割れんばかりの国民の歓声を受けながら、るんるんと段上から降りてきた藩王に、執政が駆け寄って囁きました。

「藩王さま……これ、チャーチル演説のパクリですよ」
「いいのよ。彼はブルドックだから。御同類よ。問題があるなら、同一存在とでもしておいてちょうだい」

「設定上無理があります」
 鼻白む執政を無視して藩王は足を速めました。さあ、行動の時だ。もはや一刻の猶予もならない。

 金襴緞子の帯が一気に解き放たれました。
「まずはお風呂よ!」

 FVBの戦争準備はちゃくちゃくと進んでいるようです。

This page is 物語でみる各国の戦争準備状況.