さくらアイドレス劇場『究極温泉探し2』

ここでは大いなる愛のドラマが語られるはずである

…………なあんちゃって


★主な登場人物
ユキシロ ……方向音痴な機甲侍。リンクシステムはどうなっている!?

天河 宵 ……追い詰められないと本領発揮できない機甲侍。普段は右往左往。



「温泉が欲しいのじゃ!」
 再び藩王がそう言い出したのは、『玲ちゃんとオカっちのラブラブ油田』が操業を開始した翌日のことだった。先日、原泉探しに送り出した執政たちが、代わりにレアメタルを見つけてきたのが気にくわないらしい。いわく「レアメタルでは身体は休まらないし心も落ち着かないよねえ」とのこと。執政・道化見習いの「でも懐は温まりました」の言葉は軽くスルーされ、再び温泉探査隊が送り出されたのであった。

 もちろんFVBにも既に温泉がある。登録アイドレスを確認するまでもなく、火山国であるから、あちこちに温泉は湧いているのだ。地下の洞窟温泉でゆっくり清酒を楽しむというのは風物詩の1つだ。

「藩王さまは炭酸泉をお望みらしいね」
「ムチャを言われるわね」
「けれども完全に否定できない程度のムチャではあるよ」

 炭酸泉というのはお湯に炭酸ガスが溶け込んだ温泉のこと。身体を温めるには最適かもしれない。だが炭酸ガスは高温のお湯には溶けにくいのだ。そして幸か不幸か、今までに発見されているFVBの温泉はどこも湯温が高い。

「ほいじゃ、ま、……と」
 2人の機甲侍は両手を合わせた。
「天に星斗!」
「地に山川!」
「天地あまねく見通すは……」
「五百羅漢の叡智の光」
「千体荒神が天通眼」
「「起動せよ!神の眼、<天眼>!!」」
 普段は切断されている機甲侍同士のデータベースがリンクされ、さらには地下深くに設置されている参謀本部や地理協会の電脳からもデータを引き出して演算を開始する。その結果は、あたかも天から見下ろしているかのように機甲侍の脳裏に映し出されていく。

「このあたりはどうでしょう、天河さん」
「かなり山間だけど、地質的にも有望そうね……よし」

 ……で、彼女らは海に来ていた。
「寄せては返す白波の……って、なんじゃい、こりゃあっ!?」

「う〜ん、お茶碗は左で、お箸は……」
「もういいわよっ!」
 なぜFVBすべてを網羅する地理データを読み込んでいて道に迷うのか、迷子になるユキシロもどうかと思うが、気づかずに付いてきている天河宵もかなりいい加減だと思う。

「まあ、食塩泉くらいはみつかるかも……ユキシロ。責任を取って潜ってらっしゃい」

「え〜、躯が錆びるとイヤだなあ」
「問答無用!」
 天河はユキシロの尻を蹴飛ばした。
 ユキシロはきれいな放物線を描くと、景気の良い音ともに白い水柱をあげた。


 ユキシロは流されてしまった
 サムライは流されてしまった
 温かきを求め、冷たき深淵のよどみへ
 ユキシロは流されてしまった
 それは悲しみの歌
 果てしなき漂白の言葉
 お茶碗は左で
 お箸は右
 めぐる月日を語らずして
 ユキシロは 竜の宮へと辿り着く


「……と、まあ、そういうわけで」
「どういうわけよ!?」
「まあまあ。とにかくアイシャルリターン、FVBよ、私は帰ってきたっ!って感じ」

 北の浜辺に立った天河宵は、大きな風呂桶を被ったユキシロの姿に、こめかみを押さえ、藩王になんと報告しようかと頭を悩ませていた。ユキシロはこの姿で、亀のようにのこのこ姿を現したのだった。しかも黄金風呂である。

「実際のところ、海底の砂の下に埋もれていたのよ。最初は何かと思ったわよ。で、他にも何かないかと辺りをしばらくうろうろしてみたけど、見つかったのはこれだけ」

 そういって風呂桶の中から、風呂桶に負けじとピカピカ光る椅子を取りだした。金色に光る椅子というだけでもヘンなのに、椅子の真ん中の部分が凹状にへこんでいる。

「これは……なんだ? 本当に椅子なのか?」
「え〜、天河さん、知らないんですか? これで椅子の中央に手が入るでしょ? とわたりをラクに洗うための工夫なんですよ!」
 下品ですね。
「ヘンなことに詳しいな」
「えっへん! でも、誉めたからって、何も出ませんよ☆」

 温泉そのものではなかったが、少なくともこれなら入浴はできるし、身体を休めて心を落ち着かせることもできるだろう。少なくとも、今日はこれで勘弁して欲しい。
 天河宵はとぼとぼと、ユキシロはびしょびしょのまま、黄金風呂を手にさげなから、ぎっしゃんぎっしゃんと家路を辿ったのだった。


 とってんからりのぷぅ。
(りま記す)
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