さくらアイドレス劇場『ブラック恋人探し』

 

ここでは壮絶なる戦いのドラマが語られるはずである

 

                       ・・・・・・・なあんちゃって

 

★主な登場人物
曲直瀬 りま ……食事にうるさい犬忍者。でも自炊する気はないらしい。
霧狗 光 ……性別不詳の犬忍者。いつも国内をふらふらしつつ子供と遊んでいる。
オカミチ ……いざというときは頼もしい機甲侍。口は災いの元。
支倉 玲 ……性別不詳な吏師。いつも国内をふらふら巡視している。

 

麗しき勇気ある花たちの国を見守るように、今日も百華山は山々の向こうにその雄大な姿をのぞかせている。
その霊峰に祈る男がいた。
赤を基調とした鎧甲に黒と金のラインが幾筋も走っている。この国の護り手、機甲侍が一人、オカミチであった。
冷たく澄んだ空気の中、オカミチは百華山に向かって大きく柏手を打った。
そして祈る。
「願わくば我に七転八倒を与え給え」

 

『その願い、かなえましょう〜っ!!』

 

え?

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

とどろく銃声、飛び来る砲弾。
「藩王さまはいずこ、藩王さまは居ずや!」
荒波洗う海岸で、闇をつらぬく吏師の叫び。
周囲くまなく三度呼びかける。
だが、呼べど答えず、探せど見えず……。

 

ここは王様居住区北西。間近に塔が見える海岸沿いのエリア。時はお昼、ちょい前(闇夜に非ず)。
ざばんざばんと波が打ち寄せる中、この付近で目撃されたというさくらつかさ藩王の捜索がおこなわれていた。
しかし機甲侍の<天眼>、犬忍者の<聴>を駆使しても藩王は発見されていない。
「……いったいどこに隠れておられるやら」
曲直瀬りまが憤まんやるかたないといった表情で呟くと、目の前できょろきょろ辺りを見回していた機甲侍オカミチの尻をけっ飛ばした。
「なんで、ここなんですか」
尻をさすりながら訊ねるオカミチに、ちっちっちと指を振りながら光に透けると栗色に見える髪の吏師が答えた。

 

それは1つの伝説が始まりだった。
女の子なら誰もが信じたいと思う伝説。建国記念の日に、伝説の塔の下で女の子から告白して生まれたカップルは永遠に幸せになれるというものだ。
「どうだい、ロマンチックな話だとは思わないかね?」
支倉玲は狩衣の懐から取り出したメモを読み上げながらふふふと笑った。
「これが……そのお、伝説の塔……なんですか?」
「そう」
「はあ……」
確かにそんな美味しそうなネタがあるなら、藩王さまを見かけたという目撃情報にも信憑性が出てくる。
「質問」
「はい、なんでしょう?」
「これって……灯台じゃありませんか?」
「そうともいう」
高級官僚はさらりと受け流した。
頭上では海に向かってちかちかとライトが瞬いている。
「もう1つ疑問があります」
「なんだね、オカッち」
「ヘンな名前で呼ばないでください!」
「なら、ダーリン」
「オカッちでいいです」
「それで何が疑問なのかね、オカッち」
この人はヘンな人だ……。
オカミチはうっかりそう口に出しそうになって慌てて手で塞いだ。
支倉は類い希なる美青年だ。いや、美青年らしい。美青年だろう(願望)。そのやけに長いまつげや、すぐ近くにまで寄るとほんのり漂ってくる甘い香り、かすかにふっくら丸みを帯びた肩のラインを見ていると、もしかしたら女性ではなかろうかなどと思うときもある。だが、いつもふらふらしているヘンな人には違いない。
「だって、藩王さまが告白するような相手なんているんですか!?」
不敬罪の一歩手前ですね。
「それはだね……」
支倉に替わって答えたのは犬忍者の霧狗光だった。
「ハンオーサマが好まれるのは、ダレカがオトコに告白するところを見物することなのん」
不敬罪に値する発言ですね。
この人も十分にヘンな人だった。男か女か判別できないところは支倉玲と同じだった。いつもあちこちふらふらしているところもそっくりだ。藩王さまのことを責められたものではない。
「しかし、そろそろ見つけないと……」
「そう。見つけないとお昼時になってしまう!」
そうなのだ。
お昼になってしまえば藩王さくらつかさの所在は確定する。もう、探すまでもない。執務中に行方不明になった藩王さまも、それまでどこにいようが食堂でアツアツのうどんでもすすっているに違いないのだ。そうなったら……彼ら4人は単に半日棒に振っただけ……ということになる。
「それは悲しいなあ」
りまがぶつくさ文句を言った。
「オナカが空いてしまうのん」
光がたもとから取り出した氷砂糖をなめなめ言った。
「わかりました」
支倉玲が固く閉じられていた灯台の扉の前でごそごそ始めたかと思うと、すぐにピキーンという音がして扉が開いた。<織り姫の指>の力である。
「オカッち。ちょっとこちらへ……」
中に入って薄暗い灯台1階へと足を踏み入れた支倉がオカミチを手招きした。
言われるままに、がっしゃんがっしゃんと機甲侍が入っていくやいなや、支倉はオカミチの肩にすっと手を回し、耳元に甘く囁きかけた。
「オカッち。私は君に一目会った瞬間から恋に落ちていたのだ。君のことを思うと、私の胸は百華山のように高鳴り、今にも噴火してしまいそうになる。この瞳が潤んでいるのがわかるか! この上気した頬のぬくもりを感じ取ってくれるか? 私は、私は……」
支倉とオカミチの顔が近づき、くちびるとくちびるが触れあおうとした瞬間、かすかにガタリとした物音を犬忍者は聞き逃さなかった。
「「そこっ!!」」

遠慮容赦無しにクナイが飛んだ。
手加減無しに手裏剣が乱舞した。
ヒッとばかり飛び出した人影に、取り押さえようとしたのか、自分が逃げようとしたのか、オカミチがパワー全開で突進した。
まともにぶつかったら潰されてしまう!!
しかしそこはこう見えてもガチンコ勝負で接近戦をモノにしてきた歴戦の勇者。藩王さくらつかさは寸前でひょいと避けた。止まらず機甲侍は灯台基部に激突。
小さな亀裂が走り、それはすぐに大きな亀裂となる。
「崩壊するぞ!」
「急いで、脱出だのん」
「藩王さまを!」
慌てて5人が飛び出すのと、灯台が凄まじい轟音とともに倒壊するのとほぼ同時だった。

「あーあ………?」
だが、もうもうと舞い上がったホコリが落ち着く間もなく、もっと大きな振動がじわじわと足下から這い上がってきた。
「何かが来る!」
犬忍者の知覚を使わなくても、それくらいは判った。
再び走り出す5人の背後で、ドカ〜ンッと景気の良い音を立てて黒い柱が天にそびえ立った。
頭上から降り注ぐ黒い雨。
石油である。
信じられないことではあるが、灯台の崩壊が引き金になってしまったようだ。
「地層的にはありえねーんだけどなあ……」
データベースをチェックしながらオカミチが溜息をついた。
「よい、よい。あっぱれ、あっぱれ」
贅を尽くした一級品の着物に黒々とした染みを(現在進行形で)付けながら、臣下4人の背後でFlores valerosas bonitasの藩王が絢爛豪華な扇を打ち振るって高笑いしていた。
「灯台はまた建てればよい。石油を掘り当てただけでも儲けモノじゃ」
そして、さくらつかさは愕然とする男女に対してきっぱりと宣言した。
「そちらの貢献に感謝するぞ。褒美にこの油田を、『玲ちゃんとオカっちのラブラブ油田』と命名する!!」
そして藩王は高らかに、本当に嬉しそうに大笑いしたが、ふいにちょっと真面目な表情になった。
「オウサマはそろそろデフコンが0になりそうな気がするのじゃ。おまえたちも早う指揮所へ来るがよい!」
そういうや、瞬く間に消えてしまったのであった。

 

余談ながら、崩壊した灯台は瞬く間に再建された。
ただし元と同じモノではない。
「これって、石油の掘削プラットフォームとかいいません?」
「そうともいう。正式にはガイドタワーだな。それに灯火をつけてみた。2人の熱いハートにふさわしいとは思わないかね?」
2人を祝福するかのように、頭上では炎が赤々と吹き上がり、足下では2人のハートのときめきのようにパイプラインをどくんどくんと原油が流れていくのであった。

 

                               (りま記す)

○冒険結果:大成功:得たお宝:燃料10万t:ユニークな結果:なし
コメント:ブラック(黒)の恋人とは油田でした。
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