宇宙というのは放射線や質量放射の荒れ狂う灼熱で極寒の極真空という、劣悪を超越した生命を許容しない世界だ。
いや、機械でさえそれらに対処していなければ瞬間でデブリと化す、そんな場所だ。(ハッブル宇宙望遠鏡を思い出そう)
生身の人間はそこに行くために自らの生存環境を運び込み、その殻の中でようやく生命活動を維持できる。
船外作業服もその例外ではない、0.3気圧に減圧しなければ船外作業服自体が真空圧に耐え切れないが人が即座に死ぬ環境ではない、オムツ付ではあるが…
このオムツを下着として紹介…するわけではない、そんなものはWDのトイレパックと変わりはない。
今回紹介するのは宇宙侍/宙の神兵用の宇宙活動用インナースーツである。
FVBといえば和風の国(東国人)ならば下着は褌が…と思いきやそのような短絡で安直な思考は論外だ、ひねれ、もっとひねれ!安易なモノなんぞ誰も望んではいないのだ。
※うちゅうじだいのしたぎ※
地球という惑星は偉大で、その磁場で太陽風を蹴散らし、大気を守り、その大気は有害線を減殺し、結果生命を育んできました。
宇宙に棲む民は、これら母星の機能を模した施設によりその版図を広げてきたのです。
FVBもその例外ではなく、様々な宇宙対応をしています、それは特色であるサイボーグ系統にも見受けられます。
「え?機械だから船外作業服なんて要らないんじゃないの?」と思われるかもしれません、しかし機械にも、いや機械だからこそ必要な装備も存在するのです。
全ての物質は温度状態によってその姿を変えます、融点以下、つまり固体状態にさえ変化があるはご承知のとおりです、即ち熱膨張という現象です。
太陽の光を受ける日照面は、大気による減衰なしに全てのエネルギーを受けるため摂氏百数十度にまで加熱される場合があり、その反対側の陰影面は絶対四度に晒されます、この温度差は実に数百度に及びます。
一方が膨張し反対側は収縮する、このような状態で関節機構等はクリアランスが確保できなくなり稼動すれば、極稀に静止状態ですら損壊するのです。
宇宙で関節損壊を防ぐには熱収支を均一化、もしくは温度変化を緩やかにしなくてはなりません、大型の機械であれば内部に循環式熱対策装置を設置できるでしょう、しかしサイボーグは人のサイズでしかも内部は機械でびっしり、そんな装置を設置する余裕はありませんし、無理やり設置したらヒトガタを維持できなくなるでしょう。
そういった背景がこの宇宙下着、「ヒートレーン(※2)インナースーツ」を生み出すことになったのです。
この下着は生地自体が特殊で、断熱層の下に極小ヒートパイプ(※1)を伸張生の高い熱伝導素材に千鳥に埋め込んだシートを重ね合わせ、裏地に熱移動量の高い樹脂幕で多い金属薄膜を蒸着したものを使用しています。
効果として内側の温度は一定化されやすく、また外からのエネルギーを取り込みにくい構造です。
この生地を機能喪失させずに切断裁縫する事は不可能なので、熱による溶断/溶着/整形を同時に行う事が可能なバルーン成形(※3)を用いて全身を被う形状を一体整形で一気に作り出します。
その後にファスナーや整形部分の補強布が接着され、ようやくサイボーグが着込める強度を得ますが、色は全くおしゃれとは無縁な濃紺かグレーしか存在しません、まあ樹脂の性質上塗装が効かないうえに「実用の機能優先だから仕方ない」と、おしゃれに気を使う一部の侍たちは嘆きつつも諦めているとか。
基本的にフルオーダーメイドであり、各個人に合わせた金型を必要とするため、最高級品のシルク下着などがティッシュペーパー並に思える恐ろしい価格になってしまいました。
余談ですが、国ではコストダウンのために金型をケチって、本人に生地を当てた状態でヒートカッター切断するというような荒っぽい光景も散見されるとか、サイボーグならではの製法ではあるのですが…
サイボーグ儀体の方を「同じサイズにそろえてしまえばいいじゃないか」とも思えなくもありませんが…
個性が維持しにくい機械の体の上でサイズまで御仕着せであるのは好ましくなく、侍自体も元の身体をイメージした形状を好むのでこればかりは仕方ない出費というか、繊細且高出力なサイボーグの宇宙活動には欠かせない物なので諦めるしかないのです。
でも「宇宙開発は金食い虫!」と必要経費が右肩上がりの帳簿の表紙には書き込まれているとかいないとか。
※1密封状態の空間中に作動流体を封止したもの、外部熱エネルギーで状態変化する作動流体圧力変化を用い熱を移動する装置、閉鎖空間内の圧力は一定に維持される性質を利用し圧力を熱エネルギーに相互変換する事で通常の物質では達し得ない熱移動量を持つ、熱の超伝導とも呼ばれる。
※2ヒートパイプ構造を多重に配し、どの方向から入力された熱であっても効率よく移動できる構造体、重力下においてヒートパイプは対流の関係上、上からしたへ熱移動する事が苦手である為多重化することでこの弱点を克服したもの、このケースでは極低重力下である宇宙で対流は発生しないが動作によって変形するため極小ヒートパイプを並べたレーンとしなくてはならなくなった。
※3二枚のシート間に空気を注入しながら一対の雌型で挟み込む成型方法、内部に空間を持つ中空物が成型可能である、ビニール製の人形や総樹脂製のスポイトなどもこの手法を用いる。
#第一稿のヒートパイプ繊維自体が成立しなかった為ヒートパイプを内包する樹脂膜に変更、そりゃ曲げたら伸びる→伸びたら空間サイズ変わる→変わればヒートパイプじゃなくなるわな…って事で。
#隣接するヒーパイどうしは千鳥格子に配置されてる状態、間に高熱伝達ゴムが挟まってるような感じで想像ください。瞬時に熱移動は無理ですが普通にステンレス以上には伝導できそうな…