ピアニストのように、もしくはソロバンをはじく歴戦の商人にも似た、戦艦に座するオペレーターの指使いはそう称えられる。指先が弾くには十分の、しかし小さなキーの上、踊る白い指は電子戦では刀を振るう力強い手となり、相手を粉砕する足ともなる。
薄暗闇の中、浮かび上がる光を追いかけるようにキーを弾く音が船橋に響く。地上から見上げればキラキラと輝いて見える星空も上がってくれば闇に満たされた海ににている。
「敵が見えないですね」
「暗いからな−」
「赤外線に切り替えたら?」
「俺目は生なんだけど」
小声でこそこそと寄り集まっている者達を尻目に、オペレーターは恐ろしい勢いで指を躍らせている。敵が攻撃範囲に入る前から彼女達の戦いは始まっている。あるものは絶えず相手のネットワークに監視プログラム門番君(命名:某御庭番)を走らせ、あるものは門番君がはじき出した不正IDを強制排除し(ネットワーク上でも箒でたたき出すあたりが和風メードの矜持なのか)、他のものが不正IDがいた場所を細かく切断して修復していく。
モニターを見上げ、ノイズキャンセル機能をもつヘッドホンから流れてくる情報を素早く取捨選択し、情報収集班から伝達班や分析班へと振り分け、ほんの一ミリ程度でもいい、僅かにでもこちらの軍の有利になるようにと、相手のネットワークを引っ掻き回し、こちらの有するネットワークを守り修復している。
血の流れぬ戦いの前の、戦いのための戦闘である。
しかしこの電子戦に勝利するならば戦いはぐんと楽になり、傷つくものも減るのだ。ならばここで勝利を確実にしておきたい。
薫り高いお茶を一口含み咽を潤す。機械を優先して整えられた環境なので少し空気は乾いているが、適度に水分を取ることでそれは解消される。ぴんと背を伸ばしキーの上で指を躍らせながら、オペレーターは深く息を吸う。
勝利を
歌うようくキーボードの音が唱和する。
地上で踊るように敵を翻弄するオペレーターズは、宇宙にあってもかわることなく敵を翻弄し続けた。